ほ座カッパ星

ほ座κ星

ほ座κ星（ほざカッパせい、Kappa Velorum）は、南天の星座であるほ座に位置する恒星です。地球からの見かけの明るさは2等で、比較的容易に肉眼で見ることができます。この星は、南半球で広く知られている特徴的なアステリズム（星列）である「ニセ十字」（False Cross）を形作る主要な恒星の一つです。ニセ十字は、その名の通り南十字星とよく似た十字形をしていますが、方角を知る上での信頼性はありません。ほ座κ星は、りゅうこつ座のイオタ星やりゅうこつ座のpsilon星などと共に、このニセ十字を構成しています。

物理的特徴

ほ座κ星は、単独の星のように見えますが、詳しい観測からは二つの恒星が互いの周りを回り合う分光連星であることが分かっています。この連星系を構成する二つの星は、およそ116.65日という周期で共通重心の周りを公転しています。分光連星は、望遠鏡で二つの星を分離して見ることが難しいほど接近している場合が多く、その存在は恒星のスペクトル線が周期的に変化することから発見されます。

名称

ほ座κ星には、マルケブ（Markeb）という固有名が与えられています。この名称は、古いアラビア語の「マルカブ」（markab）という言葉に由来しており、「乗り物」という意味を持っています。

興味深いことに、この「マルカブ」という語源は、秋の星座であるペガスス座のアルファ星、ペガスス座α星の固有名「マルカブ」（Markab）と完全に同じです。つまり、ほ座κ星のマルケブとペガスス座α星のマルカブは、語源を共有する兄弟のような名前と言えます。このように、全く異なる星座に位置する二つの明るい星が同じ語源の名前を持つのは、古代における星の知識の伝播や、異なる文化間での星の名前の受け継がれ方に関連していると考えられます。

しかし、この「マルケブ」や「マルカブ」が具体的にどのような「乗り物」を指していたのかについては、現在でも明確な定説はありません。ギリシャ神話に登場する有名なアルゴー船を指すという説が提唱されたこともありますが、アルゴー船を指すアラビア語としては「船」を意味する別の言葉（al-safinahなど）が使われるのが一般的であったため、この説には否定的な見解も存在します。結局のところ、この「乗り物」の正体は歴史的な謎として残されており、星の名前にロマンを与えています。

現代では、恒星の固有名は国際天文学連合（IAU）によって公式に管理・承認されています。IAUには、恒星の命名に関するワーキンググループ（Working Group on Star Names, WGSN）が設置されており、ここで伝統的な固有名の正当性が検討され、正式な名前として認定されます。ペガスス座α星の「Markab」は、2016年6月30日にWGSNによって先行して正式な固有名として決定されました。その後、2017年9月5日になって、ほ座κ星にも「Markeb」という固有名がWGSNによって正式に承認され、国際的な固有名として登録されました。このように、同じ語源を持つ二つの星の固有名が、わずかな期間を置いてIAUによって認定されたという経緯があります。

ほ座κ星は、南天で目を引く明るい星であり、ニセ十字の一員として航海者にも知られてきました。また、物理的には連星系であり、その固有名には古代からの謎と文化的な繋がりが込められています。これらの要素が組み合わさって、ほ座κ星は天文学的にも文化的にも興味深い恒星となっています。

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