ぼくはジェット機

『ぼくはジェット機』：時代に取り残された老兵と、未来を担うジェット機の息子

1953年、アメリカ合衆国のアニメーター、テックス・アヴェリー監督によって制作された『ぼくはジェット機』（原題：LITTLE JOHNNY JET）は、時代がジェット機へと移り変わる中での、旧式機パイロットの葛藤と希望を描いたアニメーション作品です。アカデミー賞短編アニメ部門にもノミネートされた、高い評価を得た作品となっています。

物語のあらすじ

主人公は、ジョンと名付けられたB-29爆撃機。太平洋戦争で数々の戦果を挙げた彼は、戦後、ジェット機の台頭に伴い、職を失ってしまいます。妻のメリーとの間に子供を授かり、生活の不安を抱えるジョンは再就職先を探しますが、容易ではありません。空軍への再入隊も、ジェット機しか採用されない現状に阻まれます。

そんな中、コウノトリ型のヘリコプターが、驚くべき存在をジョンの家に届けてきます。それは、ジョンにそっくりな、しかしプロペラを持たない、驚異的な速度で飛行するジェット機、ベビージェットでした。

時代遅れのプロペラ機であるジョンは、ジェット機全盛の世の中に反発を感じますが、メリーはベビージェットを愛情深く育てます。ある日、空軍主催の世界一周レースのニュースを目にしたジョンは、ジェット機を見返そうとレースへの参加を決意。妻の反対を押し切り、レースに臨みます。

レース開始直前、メリーの乳母車からベビージェットが飛び出し、ジョンの機体に乗り込みます。他の参加機は全てジェット機。老朽化したジョンの機体は、たちまち後れを取り、プロペラが外れ墜落の危機に陥ります。しかし、ベビージェットの活躍により危機を脱し、ベビージェットの驚異的なスピードで他の参加機をごぼう抜きにして、見事優勝を飾ります。

勝利の報酬として、空軍からB-29一家への特典としてベビージェット1万機の発注が提示されます。さすがに1万機は無理だと困惑するジョンでしたが、メリーは手編みのベビージェットサイズのベビー服を次々と用意し、「大丈夫よ」と励まします。

時代背景とテーマ

この作品が制作された1953年は、朝鮮戦争が終結に向かい、ソ連製のジェット戦闘機MiG-15の脅威の前に、B-29は旧式化し、主力から外れつつありました。しかし、B-29は実験機X-1の運搬など、様々な支援任務に使用され続け、1960年まで運用されました。一方、民間ではB-29をベースにしたボーイング377が盛んに使用されており、ジェット旅客機はまだ普及していませんでした。

この作品は、1953年の現状を描いているのではなく、近い将来への展望を示していると言えるでしょう。その後、民間航空においてもジェット機が主流となり、ボーイング377は「最後の大型プロペラ旅客機」と呼ばれるようになりました。

『ぼくはジェット機』は、ジェット機全盛の時代において、旧式機であるB-29の擬人化を通して、時代に取り残されること、そして世代交代の悲哀と希望を、ユーモラスに、そして感動的に描いています。また、太平洋戦争で活躍したB-29への敬意も感じられる作品です。

主要キャラクター

ジョン： 太平洋戦争で活躍したB-29爆撃機。時代遅れを感じながらも、息子ベビージェットの活躍で希望を見出します。
メリー： ジョンの妻。おおらかで優しく、夫を支え、ベビージェットを愛で育てる。
ベビージェット： ジョンとメリーの息子。生まれつき驚異的な飛行能力を持つジェット機。
元帥： ジョンの元上官。老朽化したレシプロ機で、時代に取り残された寂しさを象徴する存在。

関連作品

この作品は、同じテックス・アヴェリー監督による『ボクはスポーツカー』と同様に、世代交代と未来への期待を描いた作品と言えるでしょう。

『ぼくはジェット機』は、時代を超えて愛されるアニメーション作品として、今も多くの人の心に響き続けています。そのユーモアと感動は、世代を超えて楽しめる作品と言えるでしょう。

もう一度検索