まだ旅立ってもいないのに

『まだ旅立ってもいないのに』は、漫画家・福満しげゆきが2003年に青林工藝舎から出版した短編漫画作品集であり、彼の初の単行本です。収録されている作品は、デビュー初期の『ガロ』(青林堂)や『アックス』(青林工藝舎)、『何の雑誌』(幻堂出版)などに掲載されたものが中心で、作者の初期の作風を色濃く反映しています。

この作品集には、人生の岐路に立ち、将来への不安や焦燥感を抱えながらも、なかなか一歩を踏み出せない人々の姿が描かれています。タイトルにもなっている「まだ旅立ってもいないのに」という言葉は、まさにそのような、もがき苦しむ人々の心情を象徴していると言えるでしょう。

収録されている11の短編は、どれも主人公たちが抱えるそれぞれの悩みや葛藤、そして日常の些細な出来事が、福満独特のユーモラスかつペーソス溢れるタッチで描かれています。以下に各作品の概要をまとめます。

子供が終る子供が泣く: 子供時代の終わりと、それに伴う喪失感をテーマにした作品です。
みか月さん: 三日月のような独特なキャラクターが登場する物語です。
フカンゼン少年: 不完全な少年が抱える葛藤を描いた作品。
おじさんのうた: 中年男性の哀愁を歌い上げたような作品です。
モウカル・ハナシ: 現代社会の欲望や欺瞞を風刺した作品。
まだ旅立ってもいないのに: タイトル作であり、本作のテーマを象徴する作品です。何も始まっていないのに、すでに疲れ果てている主人公の心情が描かれています。
つまらない映画の中の君とつまらない映画の中の僕: 退屈な日常を映画に例えたような、シュールな作品です。
駅前で夜: 未発表作品であり、夜の駅前を舞台にした物語です。
僕たちは残尿感を感じる為だけに生まれてきたんじゃない: 人生の無意味さを自虐的に描いた作品です。
青春・夢・挫折・その他: 青春の光と影、夢と挫折を描いた作品です。
知らないトコロの知らないロボット: 見知らぬ場所で出会うロボットとの交流を描いた、SF的な作品です。

これらの作品群は、福満しげゆきの初期作品の特徴である、独特なユーモアセンスと、社会の底辺で生きる人々の哀愁を、巧みに表現しています。登場人物たちは、社会になじめず、自分の居場所を見つけられずに苦悩していますが、その姿はどこか人間味にあふれ、読者の共感を呼びます。また、独特の絵柄とセリフ回しも、福満作品ならではの魅力と言えるでしょう。

『まだ旅立ってもいないのに』は、福満しげゆきの作家としての原点であり、彼の作品世界を知る上で欠かせない一冊です。人生に迷い、将来に不安を抱えるすべての人々に、そっと寄り添ってくれるような作品集と言えるでしょう。

書誌情報

著者: 福満しげゆき
タイトル: まだ旅立ってもいないのに
出版社: 青林工藝舎
発行日: 2003年7月31日
ISBN: 4-88379-136-X

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