ものすごくうるさくて、ありえないほど近い (映画)

『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』：9.11と少年の心の旅

2011年、スティーブン・ダルドリー監督によって映画化された『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』は、ジョナサン・サフラン・フォアの同名小説を原作とする感動的なドラマです。9.11同時多発テロ事件という、アメリカ社会に深い傷跡を残した出来事を背景に、アスペルガー症候群を抱える11歳の少年オスカーの心の旅を描いています。

物語は、宝石商を営む父親トーマスと、彼を慕うオスカーの日常から始まります。二人は独自の「調査探検」を通して、世界を探求し、絆を深めていました。しかし、その平穏な日々は、9.11によって突如として崩れ去ります。父親を失ったオスカーは深い悲しみに打ちひしがれ、調査探検も中断します。

それから1年後、オスカーはクローゼットで見つけた鍵を手がかりに、再び「調査探検」を始めます。鍵の謎を解き明かすため、彼はニューヨークの街を駆け巡り、鍵の持ち主である「ブラック」という苗字の人々を訪ね歩きます。その旅の中で、彼は様々な人々と出会い、それぞれの経験や苦悩に触れていきます。

オスカーは、アスペルガー症候群ゆえに人とのコミュニケーションに苦労しながらも、持ち前の探究心と純粋さで、次々と困難を乗り越えていきます。特に、発声障害を持つ、祖母の家で暮らす謎めいた男性との出会いは、オスカーの成長に大きな影響を与えます。その男性こそが、実はオスカーの祖父であったという事実が、物語後半で明らかになります。

調査は難航しますが、オスカーは諦めずに探します。彼は、多くの「ブラック」という人物に会う中で、9.11によって失われたもの、そして、残された人々の悲しみと希望を目の当たりにします。そして、父親との最後の電話に出られなかったという後悔の念を、初めて誰かに打ち明けます。

物語のクライマックスでは、オスカーの母親リンダが、息子の「調査探検」を密かにサポートしていたことが明らかになります。母親の思いを知ったオスカーは、初めて悲しみを分かち合い、癒されていきます。そして、探求の末、彼は父親からのメッセージを発見します。それは、セントラルパークのブランコに隠された、オスカーへの励ましと愛情の言葉でした。

映画は、9.11の悲劇を直接的に描くのではなく、その事件が人々の心に与えた影響を、オスカーという少年の視点を通して繊細に表現しています。トム・ハンクスとサンドラ・ブロックら豪華キャスト陣の熱演、そしてニューヨークの街並みを活かした美しい映像は、見る者の心を深く揺さぶります。

『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』は、単なるミステリー映画ではありません。それは、喪失と再生、そして、人々の繋がりを描いた、感動的なヒューマンドラマです。9.11という歴史的事件を背景に、少年の成長と心の回復、そして家族の絆を描いた本作は、観る者に深い余韻を残す作品と言えるでしょう。

映画製作の裏側

映画の製作には、スティーブン・ダルドリー監督とスコット・ルーディンが5年間携わりました。脚本はエリック・ロスが担当し、トム・ハンクスとサンドラ・ブロックが主演を務めました。オスカー役には、オーディションで選ばれたトーマス・ホーンが抜擢されました。撮影はニューヨークで行われ、Arri AlexaカメラとArriRaw形式を用いた撮影手法が注目されました。音楽はアレクサンドル・デスプラが担当し、2011年12月20日にサウンドトラックがリリースされました。

評価と受賞

Rotten Tomatoesでの支持率は47％と賛否両論でしたが、Metacriticでは46/100と評価されています。アカデミー賞へのノミネートも期待されましたが、主要な映画賞では受賞を逃しました。しかしながら、その繊細な描写と感動的なストーリーは、多くの観客の心を捉え、高い評価を受けています。

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