ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ
『ようこそ！FACT（東京S区第二支部）へ』は、魚豊による日本の漫画作品であり、小学館の『マンガワン』にて2023年8月21日から2024年2月19日まで連載されました。キャッチコピーは「恋と陰謀」で、非正規社員の青年と女子大生のラブストーリーを軸に、陰謀論という現代的なテーマを深く掘り下げた作品です。2024年6月時点で累計部数は10万部を突破しており、その斬新な設定と社会に対する鋭い視点が読者から高い評価を得ています。
渡辺: 本作の主人公であり、19歳の非正規社員です。
飯山: 本作のヒロインで、裕福な家庭に育った意識の高い女子大生です。
作者の魚豊は、陰謀論を「社会的に受け入れられていないものに熱中する人の物語」として捉え、現代社会における人間心理を深く描いています。また、陰謀論に傾倒する人々の内面にある「それぞれの正義」や「一生懸命生きている姿」を丁寧に描写しており、単なる陰謀論の批判に留まらない、人間ドラマとしての側面も持っています。オカモトショウ氏は本作を「ヤバいんだけど笑える場面」があると評し、北野武監督の『首』のような独特なユーモアも感じられると述べています。
魚豊が本作の構想を始めたきっかけは、2021年のアメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件やロシアとウクライナの戦争といった出来事から、「陰謀論は人間が付き合っていかなければならない大きな事象」だと感じたことでした。前作『チ。-地球の運動について-』の連載中に次回作の構想を始めた魚豊は、それまで描いてきた「現代社会で受け入れられているものに熱中する人」ではなく、「社会的にあまり受け入れられていないものに熱中する人」をテーマにしたいと考えました。当初は「「荒らし」のコミュニティを友情努力勝利のフォーマットで描く」というアイデアもありましたが、最終的には「恋愛と陰謀論」を結びつけることで物語の筋が見えてきたと語っています。
本作は、魚豊にとって初のラブコメ作品です。恋愛描写に不安を抱えていた魚豊は、三浦糀の『アオのハコ』を参考にすることで、ヒロインである飯山のキャラクター像を固めていきました。魚豊は、恋愛を通して「それまでの自分からは遠かったものまで好きになる」変化や、「相手の影響を受けつつも、よりオリジナルな自分へと変化していく」過程を描きたかったと述べています。また、経済的格差や文化的格差があっても「心だけは平等」であるという考えを本作に込め、格差がある二人が「どうやって対等に話すのか、その平等さをどう取り戻せるのか」というテーマにも取り組んでいます。
魚豊は、現代社会において「陰謀論者を切り捨てるのではなく、共感できなくても認知する」ことが重要だと考えています。そのため、陰謀論者を「自分たちと地続きな存在」として描き、嘲笑するような表現は避けています。作中に具体的な社会情勢や政治的な陰謀論が登場しないのは、「現実の社会情勢」を扱う作品は既に多く存在するため、自身の作品では「フィクションの世界で陰謀論に迫りたい」という作者の意向によるものです。陰謀論の本質的な部分に焦点を当てるため、雨宮純氏への取材や陰謀論研究者へのヒアリングを行い、作品のリアリティを追求しました。
渡辺は、過去の自分の「被害妄想」的な経験を活かして、どんな経験も無駄ではないという理想を体現するキャラクターとして描かれました。飯山は、魚豊が尊敬する知人たちを参考にすることで、イメージが容易に固まったと述べています。渡辺と飯山が会う場面によく登場する夕日は、「心の平等さ」や「人との出会いによって感受性が更新されていく」という希望を込めて描かれています。
本作は、『このマンガがすごい！ 2025』オトコ編で35位を獲得するなど、高い評価を受けています。佐久間宣行氏は、魚豊の過去作を含めて「全部面白い」と絶賛し、そのクオリティの高さを評価しています。山脇麻生氏は、本作を「恋と陰謀の話で、啓蒙と信仰の話でもあった」と評し、読後に「今を見通したような気持ちに」なると述べています。Vtuberの因幡はねる氏は、前作『チ。-地球の運動について-』と本作は「似ているようで正反対の話」であるとし、魚豊の表現の幅広さを高く評価しています。
魚豊『ようこそ！FACT（東京S区第二支部）へ』小学館〈裏少年サンデーコミックス〉、全4巻
2023年12月12日発売、ISBN 978-4-09-853061-8
2024年3月12日発売、ISBN 978-4-09-853157-8
2024年6月11日発売、ISBN 978-4-09-853387-9
2024年9月19日発売、ISBN 978-4-09-853596-5
* このマンガがすごい！編集部『このマンガがすごい！ 2025』宝島社、2024年12月13日。ISBN 978-4-299-06276-5。
登場人物
渡辺: 本作の主人公であり、19歳の非正規社員です。
飯山: 本作のヒロインで、裕福な家庭に育った意識の高い女子大生です。
作風
作者の魚豊は、陰謀論を「社会的に受け入れられていないものに熱中する人の物語」として捉え、現代社会における人間心理を深く描いています。また、陰謀論に傾倒する人々の内面にある「それぞれの正義」や「一生懸命生きている姿」を丁寧に描写しており、単なる陰謀論の批判に留まらない、人間ドラマとしての側面も持っています。オカモトショウ氏は本作を「ヤバいんだけど笑える場面」があると評し、北野武監督の『首』のような独特なユーモアも感じられると述べています。
制作背景
構想
魚豊が本作の構想を始めたきっかけは、2021年のアメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件やロシアとウクライナの戦争といった出来事から、「陰謀論は人間が付き合っていかなければならない大きな事象」だと感じたことでした。前作『チ。-地球の運動について-』の連載中に次回作の構想を始めた魚豊は、それまで描いてきた「現代社会で受け入れられているものに熱中する人」ではなく、「社会的にあまり受け入れられていないものに熱中する人」をテーマにしたいと考えました。当初は「「荒らし」のコミュニティを友情努力勝利のフォーマットで描く」というアイデアもありましたが、最終的には「恋愛と陰謀論」を結びつけることで物語の筋が見えてきたと語っています。
恋について
本作は、魚豊にとって初のラブコメ作品です。恋愛描写に不安を抱えていた魚豊は、三浦糀の『アオのハコ』を参考にすることで、ヒロインである飯山のキャラクター像を固めていきました。魚豊は、恋愛を通して「それまでの自分からは遠かったものまで好きになる」変化や、「相手の影響を受けつつも、よりオリジナルな自分へと変化していく」過程を描きたかったと述べています。また、経済的格差や文化的格差があっても「心だけは平等」であるという考えを本作に込め、格差がある二人が「どうやって対等に話すのか、その平等さをどう取り戻せるのか」というテーマにも取り組んでいます。
陰謀論について
魚豊は、現代社会において「陰謀論者を切り捨てるのではなく、共感できなくても認知する」ことが重要だと考えています。そのため、陰謀論者を「自分たちと地続きな存在」として描き、嘲笑するような表現は避けています。作中に具体的な社会情勢や政治的な陰謀論が登場しないのは、「現実の社会情勢」を扱う作品は既に多く存在するため、自身の作品では「フィクションの世界で陰謀論に迫りたい」という作者の意向によるものです。陰謀論の本質的な部分に焦点を当てるため、雨宮純氏への取材や陰謀論研究者へのヒアリングを行い、作品のリアリティを追求しました。
登場人物や場面について
渡辺は、過去の自分の「被害妄想」的な経験を活かして、どんな経験も無駄ではないという理想を体現するキャラクターとして描かれました。飯山は、魚豊が尊敬する知人たちを参考にすることで、イメージが容易に固まったと述べています。渡辺と飯山が会う場面によく登場する夕日は、「心の平等さ」や「人との出会いによって感受性が更新されていく」という希望を込めて描かれています。
評価
本作は、『このマンガがすごい！ 2025』オトコ編で35位を獲得するなど、高い評価を受けています。佐久間宣行氏は、魚豊の過去作を含めて「全部面白い」と絶賛し、そのクオリティの高さを評価しています。山脇麻生氏は、本作を「恋と陰謀の話で、啓蒙と信仰の話でもあった」と評し、読後に「今を見通したような気持ちに」なると述べています。Vtuberの因幡はねる氏は、前作『チ。-地球の運動について-』と本作は「似ているようで正反対の話」であるとし、魚豊の表現の幅広さを高く評価しています。
書誌情報
魚豊『ようこそ！FACT（東京S区第二支部）へ』小学館〈裏少年サンデーコミックス〉、全4巻
2023年12月12日発売、ISBN 978-4-09-853061-8
2024年3月12日発売、ISBN 978-4-09-853157-8
2024年6月11日発売、ISBN 978-4-09-853387-9
2024年9月19日発売、ISBN 978-4-09-853596-5
参考文献
* このマンガがすごい！編集部『このマンガがすごい！ 2025』宝島社、2024年12月13日。ISBN 978-4-299-06276-5。
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