りゅう座ゼータ星

りゅう座ゼータ星

りゅう座に属する恒星、りゅう座ゼータ星（ζ Dra / ζ Draconis）は、地球から観測した場合、3等級の明るさで見える比較的明るい星です。この星は、天球上の特定の基準点との位置関係や、歴史的に多様な名称で呼ばれてきたことから、興味深い存在として知られています。

天球上の位置

天球における重要な基準点の一つに、黄道北極があります。これは、地球の公転軌道面に垂直な方向の北を示す点であり、およそ赤経18時間、赤緯+66.5度の座標に位置しています。この黄道北極は、りゅう座のデルタ星（δ Dra）とりゅう座ゼータ星（ζ Dra）の間に位置するとされており、りゅう座ゼータ星がこの天文学的に重要な領域の近くにあることが分かります。

歴史的な名称

りゅう座ゼータ星は、古くから様々な文化圏で異なる呼び名を持っていました。

アラビア語に由来する名称

歴史的には、りゅう座ゼータ星はりゅう座イータ星（η Dra）とペアで扱われることがあり、Al Dhibain（アル・ディバイン）という名称で呼ばれることがありました。この名前はアラビア語の「Al dhi'bah」または「Al dhi'bān」に由来しており、「2匹のハイエナ」という意味を持っています。天球上で近接して見えるこれらの星を、一対の動物にたとえたものと考えられます。

ラテン語での呼び名

また、ラテン語ではNodus III（ノドゥス・テルティウス）という名称が使われることもありました。これは「竜の尾の3番目の結び目」という意味です。りゅう座は、天球上で竜がとぐろを巻いたような形に描かれることが多く、ゼータ星がその尾の部分にあることから、星図上で位置を示すためにこのような具体的な表現が用いられたのでしょう。

現代の固有名：Aldhibah

恒星の名称は、国際天文学連合（IAU）のワーキンググループ（WGSN）によって整備・標準化が進められています。2017年9月5日、WGSNは、りゅう座ゼータ星（具体的にはその主星であるりゅう座ゼータ星A）の正式な固有名として、Aldhibah（アルディバ）を承認しました。これは、かつてのアラビア語名に由来する名称であり、現代においてこの星を特定するための公式な呼び方となっています。

中国の伝統天文学

中国の伝統的な天文学では、星はいくつかの星官（アステリズム）にまとめられていました。りゅう座ゼータ星もその一部を構成していました。

りゅう座のゼータ星、イオタ星（ι Dra）、イータ星（η Dra）、シータ星（θ Dra）、ウプシロン星（υ Dra）、そしてりゅう座73番星は、ケフェウス座ガンマ星（γ Cep）やカシオペヤ座23番星といった他の星座の星と共に、紫微左垣（しびさへん）というアステリズムを形成していました。紫微左垣は、天帝の宮殿である紫微垣を取り囲む塀の一部を表すとされ、重要な星官の一つでした。この紫微左垣を構成する星の中で、りゅう座ゼータ星は「紫微左垣四」と呼ばれ、その位置づけが明確に定められていました。

結び

りゅう座ゼータ星、現在の固有名アルディバは、単なる3等星という等級にとどまらず、黄道北極への近さ、そしてアラビア語、ラテン語、中国語と、異なる文化圏で様々な名称で呼ばれてきた豊かな歴史を持っています。これらの呼び名は、「2匹のハイエナ」や「竜の尾の結び目」、「紫微左垣四」といった具体的なイメージを伴い、この星が古来より人々の注意を引き、天文学的、あるいは文化的シンボルとして捉えられてきたことを示しています。国際的な固有名の確立は、その長い名称の歴史の一端を現代に引き継ぐ行為とも言えます。りゅう座ゼータ星は、科学的な探求の対象であると同時に、人類の天文への関心の歴史を映し出す星の一つと言えるでしょう。

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