ろう者

ろう者についての詳細

ろう者（ろうしゃ）とは、聴覚障害者の中で特に聴覚に大きな障害がある人々を指し、聾者や聾唖者（ろうあしゃ）とも呼ばれています。この言葉の意味は多義的ですが、一般的には聾学校を卒業し、日本手話を日常的に使用する人々や、ろう者社会に所属する方々が自らを指して「ろう者」と称することが多いです。特に、音声による言語習得がなされる前に失聴した方々が多く見られます。ただし、聴覚障害者という表現には「障害」という語が含まれるため、この言葉を好まない方々が「ろう者」を選ぶのが一般的です。手話を堂々と使い、聴覚を失った自らを受け入れる姿勢がここには垣間見えます。

語義の変遷と論争

1990年代にアメリカのろう文化が日本に紹介されるまでは、医学的観点からの「ろう」が一般的でした。そのため、中途失聴者であっても自らを「ろう」とする人々が存在しました。しかし、1997年に木村晴美と市田泰弘が発表した「ろう文化宣言」において、ろう者は日本手話を使用する言語的少数者であるとの文化的定義が提唱され、このことは聴覚障害者社会に大きな影響を与えました。この宣言は手話教育の促進に寄与する一方で、日本手話を使わない人々を排除するかのような急進的な意見もあったため、批判の的となりました。

この論争は雑誌『現代思想』において討論されました。しかし、双方の意見は平行線を辿り、結局は沈静化しました。この過程で、言語的・文化的な観点から「ろう」「難聴」「中途失聴」の区別が広がり、先述の宣言の急進的な要素もやや落ち着きを見せたと言われています。

医学的基準からの「ろう」

医学的な観点では、耳の聴力が両耳100デシベル以上の場合を最重度の聴覚障害とし、これを「ろう」と定義します。現在では文化的背景が重視され、英語では医学的な観点からの「ろう」はdeaf、文化的観点からの「ろう」はDeafとされています。たとえば、失聴した時期や育った環境によっては、100デシベル以上の最重度の障害があっても、自らを難聴者や中途失聴者と捉えることがあります。また、高齢による難聴であっても、一般的には自分を「ろう者」とは呼びません。

「聾唖」について

「聾唖」という言葉には「唖（あ）」、すなわち話せないという意味が含まれています。かつては重度の聴覚障害者は音声言語を取得できないと見なされていましたが、近年では口話法や高性能な補聴器、早期教育によって、口頭でのコミュニケーション能力をある程度まで育むことが可能となっています。しかし、健常者と全く同じレベルで話すことは難しいのが現実です。このような背景から、近年では手話を使うことが一般的になり、「ろう」という表現が広まりました。

「聾児」という概念

ろう者であるかどうかは本質的に決まっていると考える意見もあり、そのため重度の聴覚障害のある子供たちを「ろう児」と呼ぶことがあります。この考え方は、聴覚障害児が将来的にろう者になる運命にあるとの見解に基づいています。しかし、普通の環境で育つ限り、彼らは「ろう」文化に触れずに成長する場合が多く、一般的な教育現場では「ろう児」という呼称は用いられていません。

まとめ

ろう者は聴覚障害のある人々の中でも特に文化や言語の観点からのアイデンティティを持つ存在です。手話を用いたコミュニケーションの重要性や、聴覚を失った自分を積極的に受け入れる姿勢が特徴です。多様なバックグラウンドを持つろう者たちの理解を深めることが、社会全体のバリアフリーに繋がります。

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