わたしが・棄てた・女

『わたしが・棄てた・女』の詳細

概要

『わたしが・棄てた・女』（わたしが・すてた・おんな）は、1963年に遠藤周作によって発表された長編小説です。この作品は、ハンセン病と診断された森田ミツという女性の波乱に満ちた人生を描き、その中に隔てられた愛や悲劇を巧みに織り交ぜています。遠藤の文体は軽妙でありながら重厚感も持っており、中間小説としての地位を確立しています。

あらすじ

物語は大学生である吉岡努が主人公です。彼はある日、拾った芸能雑誌の文通欄で森田ミツという女性の名前を見つけ、彼女に興味を持ちます。ミツとの初デートは裏通りの安旅館で行われ、吉岡は強引に彼女の体を奪ってしまいます。しかし、吉岡はミツの外見に魅力を感じず、次第に彼女に対して嫌悪感を抱き始めるのです。彼はその後、ミツと会うことを全て拒否します。

ミツは吉岡への一途な愛を抱き続け、彼女の手首には痛々しい赤い痣がありました。この痣は、彼女に対する社会の偏見や差別を象徴しています。大学を卒業した吉岡は、三浦マリ子という女性と親しくなり、彼女とミツが同じ製薬工場で働いていたことを知ります。また、トルコ風呂に通い始め、そこでもミツの存在を知ることになります。

ある日、再びミツと再会した吉岡は、彼女がハンセン病の疑いから療養所に入らなければならないと告げられます。哀れみや同情を示す暇もなく、その場を去ってしまう吉岡。しかし、ミツは療養所の生活にも次第に慣れ、医師から誤診だったと告げられ、喜び勇んで帰ろうとします。

そんな彼女が、かつての同僚マリ子との再会を果たし、マリ子が幸せそうに結婚の話をする姿を見て、ミツは深い孤独感に苛まれます。奉仕の日々を送る修道女たちを手伝うために、ミツは自ら療養所に戻る決意をするのです。生活が落ち着く頃、吉岡は彼女に年賀状を送りますが、その返事には彼女が交通事故で亡くなったことが告げられていました。ミツが最後に残した「さいなら、吉岡さん。」という言葉は、彼にとって重い響きを持つことになります。

作品の意義

この作品では二つの視点が巧みに交差し、読者に深い感動を与えます。吉岡の視点を通して描かれる物語と、ミツによる「手首のあざ」の視点が組み合わさることで、愛の複雑さや自己犠牲について考えさせられます。ミツのテーマは、後の作品『沈黙』に繋がるものでもあり、遠藤周作の文学的成長を感じさせる重要な位置づけの作品となっています。

キャラクターと特徴

ヒロインである森田ミツのモデルは、実際にハンセン病と誤診された井深八重という看護婦であり、作者の遠藤は彼女を非常に愛していました。また、作品内では「トルコ風呂」という表現が現在では「ソープランド」に修正されています。これは、1984年にトルコ人からの抗議で改名されたことによりますが、その実態は初期のトルコ風呂とは異なると指摘されています。

初出と刊行

この作品は1963年の『主婦の友』に連載された後、1964年に文藝春秋新社から書籍として刊行されました。その後、さまざまな出版社から再版が行われ、多くの読者に親しまれています。そして映画化も行われ、村上春樹など多くのクリエーターにも影響を与えてきました。2000年代には翻訳版も出版され、海外にまでその名を馳せています。『私が棄てた女』として映画化された作品もあり、数度にわたるリメイクや舞台など展開を見せています。

このように、『わたしが・棄てた・女』は遠藤周作の名作の一つとして、今もなお多くの人々に感動を与え続けています。普遍的な愛や喪失、劣等感や孤独感を描いたこの物語は、私たちが生きる上でのヒントや教訓を与えてくれる貴重な作品と言えるでしょう。

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