アイアンブリッジ (イングランド)

アイアンブリッジ：産業革命の息吹が残る地

イングランド中西部のシュロップシャー州、セヴァーン川沿いに広がる静かな集落がアイアンブリッジです。ここは、ユネスコ世界遺産にも登録されているアイアンブリッジ峡谷の中心部に位置しています。集落の名前は、峡谷に架かる非常に有名な鉄橋「アイアンブリッジ」から名付けられました。この橋は全長およそ30メートル（100フィート）の鋳鉄製で、1779年に建設が始まり、1781年に開通した歴史的な構造物です。行政区分上は、テルフォード・アンド・リーキン・カウンティ・バラの一部であるザ・ゴージ行政パリッシュに属しています。

歴史的背景

アイアンブリッジとその周辺地域は、「産業革命が誕生した場所」としてしばしば喧伝されます。これは、近くのコールブルックデールにおいて、エイブラハム・ダービー1世がコークスを用いた鉄の精錬技術を確立し、それまで高価だった鉄製品をより手頃な価格で提供できるようになった史実に基づくものです。しかし、産業革命は特定の場所で一斉に始まった出来事ではなく、鉄道網の拡大、紡績機や織機をはじめとする多様な機械の発明、そして新たな事業手法の展開といった多岐にわたる活動が、イギリス全土で同時進行した複雑な現象でした。ダービーによる鉄の精錬技術も、この広範な革命の一部分にすぎず、しばらくすると他の大規模な製鉄地域が登場し、その重要性は相対的に低下します。それでもなお、コークス法による初期の鋳鉄生産を今に伝える数少ない場所の一つであり、産業時代の夜明けを象徴する極めて重要な遺産として位置づけられています。

鉄橋の建設は、エイブラハム・ダービー1世の孫であるエイブラハム・ダービー3世によって主導されました。彼はトマス・ファーノルズ・プリチャードが考案した設計案を採用し、セヴァーン川の両岸地域を直接結ぶべく橋の建設を進めました。工事は1779年に始まり、1781年の元旦に完成、供用が開始されました。橋の開通後、それまでメイドリーにあった古くからの市場が、新たに整備された広場とジョージ王朝時代のバター・クロス（市場施設）へと移設されました。これにより、かつてメイドリー・ウッドと呼ばれ家屋がまばらだった地域が、計画的に都市化され、アイアンブリッジという新たな集落として発展します。この地はコールブルックデール炭田地域の商業および行政の中心地としての役割を担うことになりました。橋の建設に携わった事業者たちは、増え続ける観光客を受け入れるために、トンティーン・ホテルという宿泊施設を建てました。川沿いの斜面には、16世紀に建てられた石造りの狩猟小屋、17世紀から18世紀にかけての労働者向けの住居、鉄工場の経営者や炭鉱主など豊かな人々のための壮麗なジョージ王朝様式の邸宅、そして地元で製造された様々な色の煉瓦やタイルを使った多くの初期ヴィクトリア朝時代の住宅など、多様な時代の建築物が現在も点在しています。

1837年に建てられた聖ルーク教会は、国教財務委員会の資金援助を受けて建設されたシンプルな造りの教会です。シュルーズベリー出身のデイヴィッド・エヴァンズによるステンドグラスが内部を飾っています。1847年にはメイドリーから分離して独自の教会区が設けられましたが、現在はヘレフォード教区の一部として、隣接するコールブルックデールやリトル・ウェンロックの教会区と統合されています。また、かつてハートルベリーからシュルーズベリーまでを結んでいたグレート・ウェスタン鉄道セヴァーン峡谷線のアイアン・ブリッジ・アンド・ブローズリー駅もこの地にありましたが、1966年まででその役割を終えました。サッカーイングランド代表の主将を務めたビリー・ライトは、このアイアンブリッジで生まれ育ちました。

現在のアイアンブリッジ

19世紀にはベンジャミン・ディズレイリといった著名人も訪問するなど栄えましたが、20世紀半ばには集落の活気は一時的に失われていました。しかし、1986年にアイアンブリッジ峡谷地域全体がユネスコの世界遺産に登録されたことを契機に、アイアンブリッジはシュロップシャー州を代表する観光地の一つとして再び注目を集めるようになりました。現在、地域の主要な産業は観光関連へと移行していますが、1930年に創業したテディ・ベアメーカーであるメリーソート社は今も当地で操業を続け、小さな博物館も運営しています。集落内には郵便局、薬局、いくつかのパブやカフェ、その他多くの小規模店舗があり、活気を見せています。2003年 7月10日には、当時のエリザベス女王とエディンバラ公がシュロップシャー州を訪問した際にアイアンブリッジを訪れ、自ら歴史ある橋を渡られました。年間を通じて様々なイベントが開催されており、特に8月には、伝統的な小舟であるコラクルを使ったレガッタがセヴァーン川で行われます。これは、コラクルの製造を手掛けるロジャーズ家が何世代にもわたりアイアンブリッジに暮らしている伝統に基づいています。また、隣接するコールブルックデールには、バーミンガム大学とアイアンブリッジ峡谷博物館トラストが共同で設立したアイアンブリッジ・インスティテュートがあり、文化遺産に関する大学院レベルの教育や専門的な研修を提供しています。

洪水との闘い

アイアンブリッジは、シュロップシャー州のセヴァーン川沿いの他の地域と同様に、毎年繰り返される川の氾濫という課題に直面しています。過去の洪水では、ザ・ウォーフェジと呼ばれる船着き場周辺の2軒のパブ（ザ・スワン、ホワイト・ハート）や多くの住宅が被害を受け、一部では建物の損壊も見られました。この洪水問題に対応するため、2004年2月からは環境・食糧・農村地域省（DEFRA）が環境局と連携し、洪水発生時に迅速に設置できる可搬式の防水板などの整備を進めています。洪水が最も激しい時期には、この防水板の下端から1メートルもの高さにまで川の水位が上昇することもあります。

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