アイスバイル

アイスバイルは、氷壁登攀に特化した道具で、ピッケルを基に開発されました。その主な特徴は、ピッケルのピック部分に加え、ハンマーとしての機能を持つことです。これにより、氷壁にアイスハーケンを打ち込む作業が効率的に行えます。アイスアックス、テクニカルアックスと呼ばれることもあります。

歴史

従来の登山ルートが困難になるにつれて、登山家たちはより難易度の高い氷壁に挑戦するようになりました。この過程で、「ピオレ・トラクション」という、2本のピッケルを交互に氷に打ち込みながら登るテクニックが生まれました。当初は2本のピッケルに加え、ハーケン打ち込み用のハンマーも携帯していましたが、道具を軽量化するため、片方のピッケルをハンマー機能付きのアイスバイルに置き換えるという発想が生まれました。

1930年代には、オーストリアのフルプメス地方の鍛冶組合が、フルプメスブランドで最初のアイスバイルを製作しました。当時はまだ氷壁用のアイスハーケンが普及していなかったため、氷の張った岩壁ではピッケルで氷を砕き、ハンマーに持ち替えてハーケンを打ち込むのが一般的でした。アイスバイルの登場により、持ち替える手間が省けるようになり、ヨーロッパアルプスでの岩壁登攀に広く用いられるようになりました。

アイスバイルの石突は、雪面での使用も想定して付けられました。これにより、岩場だけでなく、雪面でも一本で対応できるスタイルが確立されました。つまり、アプローチに雪がなく、氷の張った岩壁を登る状況を想定して開発された道具と言えます。

特徴と進化

一般的なアイスバイルの長さは40〜50cmで、現在のアイスハンマーに比べると長く、ピッケルに比べると短いのが特徴です。しかし、近年ではさらに短いタイプも登場しています。石突が付いているため、雪面でも使用できますが、実際にはヨーロッパアルプスのような天候の急変で雪に変わるような場所では、その需要は限られていました。そのため、生産数も多くはありませんでした。

日本でアイスバイルが注目されるようになったのは、1960年代末期に谷川岳を中心に氷壁登攀が流行してからです。アメリカの登山家、イヴォン・シュイナードが、ピッケルとアイスバイルの2本を使い、交互に氷に突き刺して登る「ダブルアックス」というテクニックを考案したことがきっかけでした。

アイスバイルは氷壁登攀だけでなく、夏の北アルプスでの岩登り後の滑落防止や、沢登りでの雪渓や草付きの通過など、様々な場面で活躍します。特に、ピッケルやハンマーを持ち歩くのが煩わしい場面では、アイスバイル一本で対応できるため、積極的に使用すべき道具の一つと言えるでしょう。

近年のアイスクライミングでは、ダブルアックス技術の発展に伴い、専用のピッケルと同様に、シャフトがジュラルミン製で軽量化され、ピック側が曲がっているアイスバイルが主流になっています。また、ピックの刃も鋭く研磨されている傾向があります。

まとめ

アイスバイルは、氷壁登攀の歴史と共に進化してきた道具です。当初はピッケルの代替として誕生しましたが、その汎用性の高さから、様々な場面で活用されるようになりました。現代のアイスクライミングでは、専用のピッケルと並び、欠かせない道具の一つとなっています。その進化はこれからも続いていくでしょう。

参考文献:
堀田弘司『山への挑戦』岩波新書 ISBN 4-00-430126-2

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