アイリッシュ・ナショナルスタッド

アイリッシュ・ナショナルスタッド：歴史と文化が織りなすアイルランドの宝石

アイルランド、キルデア県キルデア近郊タリーに位置するアイリッシュ・ナショナルスタッドは、サラブレッドの生産を目的とした国立牧場です。20世紀初頭、富裕な醸造家であったウィリアム・ホール・ウォーカーによって設立された私設牧場がその始まりです。その後、英国政府を経てアイルランド政府の所有となり、現在に至ります。

英国ナショナルスタッド時代と日本庭園

ウォーカーは1900年にタリーの土地を購入し、「タリー牧場」と名付けたスタッドファームを建設しました。そして1906年から1910年にかけて、日本の庭師、飯田三郎とその息子である飯田実を招き、見事な日本庭園を造営しました。この庭園は「人の一生」をテーマに設計されており、牧場の歴史の中で重要な役割を果たしています。当時、ロンドンで骨董商を営んでいた飯田三郎とその家族は、牧場内のCurragh House（現在は見習い騎手の教育センター）に住み込み、庭園の設計・施工に携わりました。

1906年にこの牧場で生まれた競走馬「ミノル」は、飯田実の名にちなみ命名されました。この馬は国王エドワード7世に貸し出され、1909年にはダービーステークスを制覇するなど、輝かしい戦績を残しました。1915年、ウォーカーは牧場とサラブレッドを英国政府に寄贈し、1916年に英国ナショナルスタッドとなりました。その後、1943年にアイルランド政府の所有となり、1946年にはアイリッシュ・ナショナルスタッド会社が設立されました。

アイルランド政府による運営と発展

アイリッシュ・ナショナルスタッド株式会社は、アイルランド財務省が全株式を保有する政府所有企業です。理事会メンバーは農業大臣によって指名され、著名な競走馬のブリーダーであるChryss Goulandrisも理事を務めたことがあります。現在も、数々のサラブレッドの生産、繋養を行い、アイルランドの競走馬産業を支える重要な役割を担っています。牧場では、Free Eagle、Elusive Pimpernel、Decorated Knightなど多くの著名な種牡馬が繋養されてきました。また、Royal Charger、Desert Prince、Invincible Spiritといった、歴史に名を残す名馬たちもこの地で過ごしました。

日本庭園の復活と聖フィアクル庭園

英国ナショナルスタッド時代には忘れられた存在となっていた日本庭園ですが、アイリッシュ・ナショナルスタッド会社設立後、再び管理されるようになりました。1980年代には、飯田実の子であるブライアンが庭園を訪れ、祖父の仕事を引き継ぐ契機となりました。現在も、この美しい日本庭園は多くの観光客を魅了しています。

1999年には、牧場設立100周年を記念して、聖フィアクル庭園が造られました。庭師の守護聖人である聖フィアクルにちなんで名付けられたこの庭園は、日本庭園とはまた違った魅力を放ちます。

馬事博物館とその他の施設

アイリッシュ・ナショナルスタッドには、馬事博物館も併設されています。ここでは、1960年代に活躍した障害競走馬アークルの骨格標本をはじめ、多くの展示物を見ることができます。これらの施設は、アイリッシュ・ナショナルスタッドが単なる生産牧場ではない、歴史と文化を凝縮した複合施設であることを示しています。

まとめ

アイリッシュ・ナショナルスタッドは、サラブレッドの生産という側面だけでなく、歴史、文化、そして日本庭園という独特の要素が融合した、アイルランドを代表する観光地です。訪れる人々を魅了するその魅力は、これからも長く受け継がれていくことでしょう。

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