アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア

アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア：ビートルズ不朽の名曲の軌跡

1963年、ビートルズデビューアルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』のオープニングを飾った「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」。ポール・マッカートニーが中心となって制作されたこの曲は、ビートルズの初期サウンドを象徴するロックンロールナンバーとして、現在も世界中で愛され続けています。本記事では、この楽曲の誕生からレコーディング、そして後の評価、カバーまでを詳細に解説します。

誕生秘話と作曲過程

「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」は、当初「Seventeen」というタイトルで構想されました。1960年、リヴァプールでマッカートニーが聴いた民謡「Seventeen Come Sunday」を現代風にアレンジしたことが発端です。1962年10月22日、彼は友人の家でアコースティックギターを用いてコード進行とアレンジを練り上げ、2日後には当時17歳の恋人セリア・モーティマーとのロンドン滞在中に歌詞を書き上げました。その後、レノンとの共同作業を経て完成、同年12月にはハンブルクのスター・クラブで演奏されています。興味深いことに、マッカートニーは当初この曲を別のバンドに提供する予定でしたが、マネージャーであるブライアン・エプスタインの判断でビートルズに残されることとなりました。

ベースラインはチャック・ベリーの「アイム・トーキング・アバウト・ユー」からの影響が認められており、マッカートニー自身もそのことを認めています。ビートルズは過去に「アイム・トーキング・アバウト・ユー」を演奏しており、その音源は後に非公式ライブアルバムに収録されています。歌詞はリバプール芸術学校で使っていたノートに記されており、マッカートニーとレノンがアコースティックギターを奏でながら作詞する様子の写真は、マイク・マッカートニーの著書『Remember』に掲載されています。歌詞の内容についても、レノンとの共同作業の中で修正が加えられ、現在の形に落ち着いたというエピソードが残されています。

レコーディングと制作過程

最初のレコーディングは1962年頃キャヴァーン・クラブで行われたライブ録音で、後のスタジオバージョンよりもテンポが遅いものでした。この時、レノンはギター演奏をせず、ハーモニカのみを担当しています。本格的なレコーディングは1963年2月11日、EMIレコーディング・スタジオで行われました。プロデューサーであるジョージ・マーティンは、テイク1にハンドクラップを加えることを提案し、最終的にテイク9をベースにハンドクラップ入りのバージョンが採用されました。マッカートニーのカウント「one, two, three, four!」は、通常であればミックスでカットされる部分ですが、マーティンの意図によりそのまま残されました。このカウントは、後のいくつかのバージョンではカットされています。

BBCラジオ用に演奏されたバージョンも存在しており、複数の音源が後に公式、非公式のアルバムとしてリリースされています。また、テイク9とテイク2は、それぞれ異なるアルバムに収録されています。

評価と影響

「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」は、音楽評論家から高い評価を受けています。その力強いロックンロールサウンドと、優れたメロディー、ハーモニーは、多くの音楽ファンを魅了し続けています。雑誌『ローリング・ストーン』による「The 500 Greatest Songs of All Time」「The 100 Greatest Guitar Songs of All Time」「The 100 Greatest Beatles Songs」の各ランキングでも上位にランクインしており、その歴史的、音楽的価値の高さが証明されています。

カバーバージョン

この曲は数多くのアーティストによってカバーされており、その中にはビートルズのメンバー自身も含まれています。ジョン・レノンはエルトン・ジョン・バンドと共にライブで演奏し、その音源はアルバムに収録されています。ポール・マッカートニーもソロ活動の中で繰り返し演奏しており、様々なライブアルバムに収録されています。さらに、ジョージ・ハリスンとリンゴ・スターも、ビートルズ解散後、他のアーティストと共にこの曲を演奏したことで、ビートルズ楽曲でメンバー全員が解散後に演奏した唯一の例となりました。

ティファニーによるカバーバージョン「I Saw Him Standing There」も有名です。女性目線で歌われたこのバージョンは、シングルとして発売され、CMソングにも起用されました。その他にも、数多くのアーティストが「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」をカバーしており、その多様なアレンジと解釈は、楽曲の普遍的な魅力を示しています。近年では映画『イエスタデイ』でも使用されるなど、その人気は現在も衰えることがありません。

まとめ

「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」は、ビートルズの初期作品の中でも特に輝きを放つ名曲です。その誕生から現在までの軌跡をたどることで、楽曲の持つ魅力と、ビートルズというバンドの偉大さを改めて感じることができます。

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