アウトモビリ・トゥーリズモ・エ・スポルト

アウトモビリ・ツーリズモ・エ・スポルト（ATS）: フェラーリからの独立と栄光と挫折の物語

アウトモビリ・ツーリズモ・エ・スポルト（ATS）は、1960年代初頭に、フェラーリ社内での権力闘争から生まれたイタリアのスポーツカーメーカーです。その歴史は、フェラーリ創設者エンツォ・フェラーリと、当時の幹部との対立から始まりました。この対立は、フェラーリの経営陣、エンジニア、そしてレーシングチーム代表といった主要メンバー8名もの集団退社という、自動車業界を揺るがす大事件へと発展しました。

この「宮廷の反乱」と呼ばれる事件の中心人物には、営業部長であったジローラモ・ガルディーニ氏や、チーフデザイナーのカルロ・キティ氏、そして伝説的なエンジニア、ジオット・ビッザリーニ氏らが名を連ねています。彼らは、フェラーリ社を離れた後、実業家の支援を受け、1962年2月11日にATSを設立しました。ATS設立の目的は明確でした。それは、ロードゴーイングカーとフォーミュラ1マシンを開発し、フェラーリに直接対抗することでした。

ATSの最初の挑戦は、1963年3月に発表されたミッドシップロードカー「2500GT」でした。この革新的なマシンは、当時としては非常に先進的な設計思想を取り入れ、その美しいスタイリングと高い性能で注目を集めました。しかし、ATSの挑戦は容易ではありませんでした。オーナー間の対立、レース活動における不振、そしてイタリア経済の減速といった様々な困難がATSを襲いました。結果として、ATSは多くのプロジェクトを未完成のまま終えることになります。

ATSのF1参戦もまた、波乱に満ちたものでした。元F1チャンピオンのフィル・ヒルを擁し、Tipo 100というマシンでF1世界選手権に参戦したものの、期待されたほどの成果は得られませんでした。マシンの性能不足やチーム運営上の問題が、ATSのF1挑戦を阻んだのです。Tipo 100は、実際には時代遅れのフェラーリ製エンジンの改良版に過ぎず、競争力の点で他チームに大きく劣っていました。

ATSの失敗にもかかわらず、ATSで培われた技術や経験は、その後自動車業界に大きな影響を与えました。ビッザリーニ氏はATSを去った後、イソ・グリフォやランボルギーニV12エンジンといった名車を手がけ、自身のブランドであるビッザリーニを設立します。キティ氏もまた、アウトデルタを設立し、アルファロメオとの協力関係を築きながら活躍しました。

ATS 2500GTは、カロッツェリア・アレマーノによる美しいクーペボディを持ち、キティ氏とビッザリーニ氏によって設計されたシャシと、2.5L V8エンジンを搭載していました。わずか12台が生産された希少なモデルで、その多くは現在もコレクターによって大切に保管されています。

それから時を経て、2012年、ATSは新たな投資家によって復活を果たします。オリジナルの名前を継承したロードカー「ATS 2500GT」やサーキット専用マシン「ATS スポーツ」、そしてレトロなスパイダーモデル「ATS レジェッラ」の開発が発表され、世界中から注目を集めました。2017年には、3.8L V8ツインターボを搭載したスーパーカー「ATS GT」を発表し、限定生産で販売されました。このATS GTは、マクラーレンの技術をベースに開発されたと噂されています。

そして、2019年にはモータースポーツ部門であるATS Corsaを設立、GTレース専用マシン「ATS RRターボ」を発表し、再びレース界への挑戦を表明しました。ATSは、その栄光と挫折の歴史を刻みつつ、現代においても自動車業界に新たな挑戦を続けるブランドとして存在感を示しています。その歴史は、挑戦と革新の精神、そして自動車産業における技術力の進化を物語る、極めてドラマティックなものです。

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