アエンデ隕石

アジェンデ隕石：太陽系誕生の謎を秘めた宇宙からの贈り物

1969年2月8日、メキシコ上空で目撃された壮大な火球。それは、アジェンデ隕石の落下でした。チワワ州アジェンデ村周辺に降り注いだ隕石雨は、数千個もの破片を生み出し、その総重量は推定5トンにも及びます。現在までに約3トンが回収され、活発な研究対象となっています。

アジェンデという名称は、落下地点にちなんで名付けられました。スペイン語圏特有の発音の違いにより、アメリカ英語では「アエンデ」と呼ばれることもありますが、「アレンデ」は誤った表記です。

科学的価値：太陽系形成初期の痕跡

アジェンデ隕石は、炭素質コンドライトに分類されます。このタイプの隕石は、太陽系初期の物質組成を反映していると考えられており、アジェンデ隕石はその中でも特に貴重なサンプルです。特に注目すべきは、CAI（カルシウム・アルミニウムに富む含有物）とコンドリュールと呼ばれる鉱物粒子の存在です。

CAIは、太陽系が誕生する以前の星間物質から形成されたと考えられており、アジェンデ隕石のCAIは、なんと45.66億年前という驚異的な年代を持つことが分かっています。これは、現時点で発見されている物質の中で最も古いものの1つであり、太陽系形成初期の環境を解き明かす重要な手がかりとなります。

さらに、アジェンデ隕石からは、5μmほどの微小な炭化ケイ素（モアッサン石）も発見されています。このモアッサン石は、超新星爆発で放出された物質であることが判明しており、太陽系形成以前の宇宙環境を知る上で重要な役割を担っています。

新鉱物の発見：宇宙の多様性を示す証拠

アジェンデ隕石は、新鉱物の宝庫でもあります。2007年から2009年にかけて、「グロスマン輝石」、「デイビス輝石」など、7種類もの新鉱物が発見されました。その中には、アジェンデ隕石にちなんで「アジェンデ石」と名付けられたスカンジウムとジルコニウムの酸化鉱物も含まれています。これらの発見は、宇宙における物質の多様性と、アジェンデ隕石が持つ科学的な重要性を改めて示すものと言えるでしょう。

アジェンデ隕石研究の意義

アポロ11号による月面着陸と、アジェンデ隕石の落下は、ほぼ同時期に起こった出来事です。この時代は、惑星科学が飛躍的に発展した時期であり、アジェンデ隕石の大量サンプルは、太陽系形成論、初期の惑星進化、そして宇宙の起源といった根源的な問いに迫るための貴重な研究材料として、現在も世界中の研究者によって分析されています。アジェンデ隕石は、単なる宇宙からの石ではなく、太陽系誕生の謎を秘めた、人類にとってかけがえのない宝と言えるでしょう。

関連事項

アジェンデ隕石に含まれる鉱物は、他の隕石や地球上の鉱物と比較検討することで、太陽系の進化過程をより深く理解する上で重要な手がかりとなります。例えば、カーメルタザイトという鉱物は、アジェンデ隕石に含まれる鉱物と類似の化学組成を持つことが知られています。これらの研究を通じて、太陽系の起源と進化に関する理解は、今後ますます深まっていくでしょう。

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