アカマタ・クロマタ

アカマタ・クロマタ：八重山に伝わる来訪神

アカマタ・クロマタは、沖縄県八重山列島の豊年祭に登場する来訪神であり、地域によって異なる姿と役割を持っています。豊穣を祈願し、人々の生活に深く根ざした信仰の対象となっています。

発祥と伝播

アカマタ・クロマタ信仰は、西表島東部の古見を発祥とします。そこから小浜島、新城島の上地島、石垣島宮良へと伝播しました。小浜島と上地島には古見から直接伝わり、石垣島宮良には明和の大津波後に小浜島からの移住によって伝えられたとされています。かつては西表島北部の廃村や新城島の下地島でも見られましたが、現在は失われています。

神の構成

西表島古見では、アカマタ・クロマタに加えてシロマタの3柱が現れます。他の地域ではアカマタとクロマタの2柱が一般的です。アカマタ・クロマタの名前は、それぞれ「アカウムティ（赤面）」、「クルウムティ（黒面）」に由来すると考えられています。

秘祭としての側面

来訪行事に参加できるのは、地区住民の中でも特定の資格を持つ者に限られています。祭りの一部は一般には公開されず、秘祭として扱われています。過去には、新城島・上地島で、祭を見学に訪れた部外者が島民から集団暴行を受ける事件も発生しており、写真・ビデオ撮影や祭りの内容を外部に話すことは固く禁じられています。

各地のアカマタ・クロマタ

西表島古見のアカマタ・クロマタ・シロマタ

古見では、豊年祭の2日目にアカマタ、クロマタ、シロマタの3神が登場します。日が暮れると、3神はウムトゥと呼ばれる森の奥の神聖な場所から浜に降り立ちます。まず、シロマタ、アカマタの2神がシロマタのトゥニムトゥ（宗家）に現れ、次いでアカマタのトゥニムトゥに現れます。地区の参加者はトゥニムトゥで初めて3神を迎え、礼拝します。参加者以外の住民や観客は、トゥニムトゥに軟禁状態にされます。シロマタ、アカマタはトゥニムトゥを出るとピヌス御嶽へ行き、山中に姿を消します。その後、クロマタが現れます。クロマタは帰る際に御嶽の前に衣装を残していきますが、これは来年の豊作の印とされています。

シロマタ、アカマタとクロマタが路上で出会うことは禁忌とされており、両者は時間をずらして現れます。シロマタ、アカマタは出現するところは見せるものの、帰る姿は見せません。一方、クロマタは出現する姿は見せず、帰る姿を見せるとされています。

3神が去ると、住民は家に戻り、シロマタ、アカマタに供をした旗持ち等はヨナラ御嶽とウケハラ御嶽を回り、深夜12時までシロマタ、アカマタのトゥニムトゥを唄い回ります。

小浜島のアカマタ・クロマタ

小浜島では、豊年祭は「ポール」と呼ばれ、アカマタ・クロマタが登場します。具体的な祭りの様子は資料が限られています。

上地島のアカマタ・クロマタ

上地島では、豊年祭は「ンブプル」と呼ばれ、アカマタ・クロマタは3日目の正日に登場します。夕方、アカマタ・クロマタの親子4神（子神はフサマローと呼ばれる）が現れ、美御嶽で神迎えの儀式が行われます。その後、アカマタ・クロマタ4神は夜通し各家を回り、夜が明けると美御嶽で神送りの儀式が行われます。アカマタ・クロマタは仮面を付け、全身が蔓状の草で覆われて団子のように丸くなっているのが特徴です。

石垣島宮良のアカマタ・クロマタ

石垣島宮良では、アカマタ・クロマタのことをニーロー神と呼びます。「ニーロー」とは「底が分からないほど深い穴」という意味で、地の底にあるとされるニライカナイを指すと言われています。アカマタとクロマタの2柱の神は全体が草に覆われ、ずんぐりとしており、だるまやフクロウのようにも見えます。背丈は約180センチメートルで、アカマタ（赤面）とクロマタ（黒面）は縦長の鼻に丸い目と細かいギザギザの歯を持ち、目と歯の両端には細長いヒゲがあります。目と歯に光が当たると反射して神秘的に輝くのが印象的です。アカマタは男神、クロマタは女神とされています。

アカマタ・クロマタは、八重山の各島々で独自の姿と儀礼を持ち、豊穣と人々の安寧を祈る大切な神として、今もなお深く信仰されています。

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