来訪神

来訪神：仮面と仮装の神々

古来より日本各地で伝承されてきた来訪神は、年に一度、決まった時期に人里を訪れるとされる神々です。仮面や仮装を身につけた異形の姿で現れ、豊饒や幸福をもたらすと信じられており、その地域住民が神に扮して行われる独特の風習です。

ユネスコ無形文化遺産登録

2018年、日本の10件の来訪神行事が『来訪神：仮面・仮装の神々』としてユネスコ無形文化遺産に登録されました。これは、日本の伝統文化の継承と発展にとって大きな意義を持つ出来事であり、世界各国から高い評価を得ています。

代表的な来訪神行事

ユネスコ無形文化遺産に登録された10件の来訪神行事をはじめ、日本各地には様々な来訪神行事が存在します。代表的な例として、以下のものが挙げられます。

男鹿のナマハゲ（秋田県男鹿市）: 勇ましい姿で知られるナマハゲは、子供たちへの戒めと、豊作を祈願する神として信仰されています。
宮古島のパーントゥ（沖縄県宮古島市）: 全身黒く塗りつぶした姿で、独特の迫力あるパフォーマンスが特徴です。
甑島のトシドン（鹿児島県薩摩川内市）: 2009年にユネスコ無形文化遺産に先行登録された、歴史と伝統を誇る行事です。
吉浜のスネカ（岩手県大船渡市）: 海からやってくる神として、独特の信仰が受け継がれています。
その他の行事: 岩手県のホロロン、秋田県と岩手県のナモミ、福井県のあっぽっしゃ、東京都神津島の二十五日様など、地域ごとに独自の特色を持つ様々な来訪神行事が存在します。

来訪神の意義

来訪神行事は、単なる伝統行事にとどまらず、地域住民の結束強化や、地域のアイデンティティを形成する上で重要な役割を果たしています。また、子供たちへの教育や、社会秩序の維持にも貢献してきたと考えられています。近年は、少子高齢化や過疎化といった問題により、来訪神行事の存続が危ぶまれる地域も出てきていますが、地域住民の熱意と創意工夫によって、様々な工夫が凝らされ、新たな形で継承されようとしています。

来訪神と「まれびと」

民俗学者である折口信夫は、来訪神を「まれびと」という概念で捉えました。「まれびと」とは、普段は見られない特別な存在であり、神や精霊といった超自然的な存在だけでなく、旅人や異郷の人々なども含まれます。この概念は、来訪神が持つ異形な姿や、人々への影響力の大きさなどを理解する上で重要な視点を提供しています。

来訪神の未来

来訪神行事は、日本の豊かな文化遺産の一つであり、未来世代へと受け継いでいくことが大切です。そのためには、地域住民による積極的な取り組みや、行政による支援などが不可欠です。ユネスコ無形文化遺産登録を機に、来訪神行事に対する理解と関心を高め、その保護と発展に努めていくことが求められています。

参考文献

日向の弥五郎人形行事記録保存調査委員会『日向の弥五郎人形行事調査報告書』
森田清美『日置八幡神社デオドン（大王殿）再生事業調査研究報告書』
曽於市教育委員会『大隈「岩川八幡神社の弥五郎どん祭り」調査報告書』
* 鹿児島県教育庁文化財課『かごしまの祭り・行事調査事業報告書』

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