アガストロポス

アガストロポスは、古代ギリシャの叙事詩に語られる神話的な人物であり、トロイア戦争におけるトロイア側の勇敢な戦士の一人です。彼はパイオーンの子として知られています。

長きにわたり続いたトロイアとギリシャの激しい戦争において、アガストロポスは前線で目覚ましい活躍を見せていました。彼は通常、戦車に乗って戦う戦士でしたが、時には自らの戦車を降りて歩兵として敵陣深く切り込み、より直接的な戦闘を展開することを選びました。その日も彼は戦車を降り、歩兵として戦場の真っただ中を駆け巡り、ギリシャの兵士たちと刃を交えていました。しかし、戦闘に熱中するあまり、彼は知らず知らずのうちに自身の戦車から遠く離れてしまい、戦場の只中で孤立した状態に陥ってしまったのです。

まさにその時、ギリシャ軍の中でも際立った武勇を誇る英雄、テューデウスの子ディオメーデースがその場に現れました。戦車という退避手段を失い、孤立していたアガストロポスには、ギリシャ最強の一人であるディオメーデースから逃れる術は残されていませんでした。ディオメーデースは間髪入れずに手に持った槍を繰り出し、アガストロポスの腰部を正確に貫きました。この一撃により、アガストロポスは即座に絶命し、戦場に倒れ伏しました。

アガストロポスの無惨な死は、近くで戦っていたトロイア軍の総大将、剛勇のヘクトールの目に留まりました。自軍の重要な戦士が討たれたことに激しい怒りを覚えたヘクトールは、アガストロポスを討ち取ったディオメーデースに対し、復讐を果たすべく猛然と突進を開始しました。これを見たディオメーデースもまた一歩も引かず、向かってくるヘクトールに向けて自らの槍を投擲しました。狙い澄まされたディオメーデースの槍は正確にヘクトールの頭部へと向かい、直撃しましたが、ヘクトールは神アポローンから特別に授けられたという強固な兜を身につけていたため、その兜が槍の威力を防ぎました。

強烈な衝撃を受けたヘクトールは一瞬意識が遠のきかけましたが、すぐに正気を取り戻しました。彼はディオメーデースとの直接対決の危険を察し、無理をせず味方の戦線へと後退しました。ヘクトールがその場を離れるのを確認したディオメーデースは、倒れているアガストロポスの遺体へと近づき、戦利品としてその身につけていた豪華な武具を剥ぎ取ろうとしました。

しかし、ディオメーデースがアガストロポスの武具に手をかけようとした、まさにその時、予期せぬ方向からの攻撃が彼を襲いました。トロイアのかつての王イーロスを祀るために建てられた塚のそばにある石碑の陰に身を潜めていたパリスが、ディオメーデース目掛けて弓を放ったのです。パリスの放った矢は正確にディオメーデースの右足を射抜き、深々と突き刺さりました。アガストロポスの死を巡る一連の出来事は、このようにしてトロイア戦争における一つの重要な局面を描き出しています。

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