アキディアヌス属

アキディアヌス属 (Acidianus)

アキディアヌス属 (Acidianus) は、陸上の温泉や噴気孔など、高温で強い酸性の過酷な環境に生息するクレン古細菌に分類される微生物です。これらの古細菌は、好熱好酸性かつ通性嫌気性という特徴を持ち、比較的高温で低いpHの環境下で生育できます。形態学的には、やや不定形な球状の細胞として観察されます。

生態と代謝

アキディアヌス属の古細菌の多くは、エネルギー獲得の方法として化学合成独立栄養に依存しています。これは、光エネルギーや有機化合物からではなく、無機化合物の化学反応からエネルギーを得ることを意味します。また、大気中の二酸化炭素を炭素源として細胞を合成するため、独立栄養生物とされます。

彼らの代謝は、酸素の存在下（好気条件）と非存在下（嫌気条件）で異なります。好気条件下では、主に硫黄、硫化物、あるいは第一鉄などの無機化合物を酸化することでエネルギーを得ます。一方、酸素のない嫌気条件下でも生育が可能であり、この場合は主に水素を硫黄で還元する反応を利用してエネルギーを獲得します。ただし、Acidianus sulfidivorans という特定の種は、嫌気条件下で硫化水素を第二鉄イオンによって還元するという、やや異なる代謝経路を持つことが知られています。

ほとんどのアキディアヌス属は厳密な独立栄養生物ですが、Acidianus brierleyi という種は例外的な性質を持ちます。この種は、好気条件下であればペプチドをエネルギー源および炭素源として利用し、有機物からも増殖できる通性独立栄養生物としての側面を持っています。

増殖条件

アキディアヌス属の増殖に適したpHは、およそ1から3の範囲です。これは非常に強い酸性環境であり、彼らが好酸性であることを明確に示しています。特に A. sulfidivorans は0.35という極めて低いpHでも増殖可能であり、これは知られているクレン古細菌の中で最も低い生育可能pHです。

増殖に最適な温度もまた、種によって異なります。例えば、A. brierleyi は45℃から75℃と比較的なだらかな高温を好みます。これに対して、Acidianus infernus は85℃から96℃という非常に高い温度で生育し、これはクレン古細菌全体で見ても特に高い温度域に属します。これらの温度範囲は、彼らが好熱性であることを裏付けています。

近縁種との比較とその他の性質

アキディアヌス属は、同じクレン古細菌門に属するサルフォロバス属 (Sulfolobus) と多くの類似点を持っています。どちらも高温・強酸性環境に生息し、硫黄代謝を行う好熱好酸性古細菌です。しかし、サルフォロバス属が好気条件下でのみ増殖可能なのに対し、アキディアヌス属は嫌気条件下でも増殖できる通性嫌気性である点で決定的に異なります。

また、アキディアヌス属の多くの種は運動性を持たないことが報告されています。興味深いことに、好気条件で培養された菌体と、嫌気条件で培養された菌体では、細胞の色や保存可能な期間といった性質に違いが見られることも知られています。

これらの性質から、アキディアヌス属は地球上の極限環境における微生物生態や、無機物代謝の研究において重要な位置を占める古細菌と言えます。

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※本記事は複数の文献に基づき作成されていますが、特定の研究論文を直接参照する形式はとっていません。

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