アキドバクテリウム門

アキドバクテリウム門

アキドバクテリウム門（学名: Acidobacteriota、アシドバクテリウム門とも）は、細菌ドメインに属する一門であり、グラム陰性菌のグループです。この門に属する細菌は、地球上の陸上、水圏、さらには特殊な環境まで、非常に多様な場所に広く生息していることが知られています。特に土壌環境では主要な細菌群の一つとして普遍的に存在しています。

しかし、多くの種が実験室条件下での培養が極めて困難であるという特性を持つため、その生態や生理機能、多様性の全貌はまだ十分に解明されていません。現在、正式に学名が与えられ、記載されている種は、この門全体が持つと推定される膨大な多様性のごく一部に過ぎません。環境中のDNAを直接解析するメタゲノム解析や16S rRNA遺伝子シーケンス解析などの手法からは、アキドバクテリウム門が細菌界の中でも非常に多様性が高く、大型の門であると強く示唆されています。

名称の由来と多様な生息環境・生態

この門の名称であるアキドバクテリウムは、ラテン語で「酸っぱい」を意味するAcidusに由来し、最初に発見・記載された代表的な細菌であるAcidobacterium属にちなんで名付けられました。この名称から酸性環境を好む細菌群だと連想されがちですが、門全体としては必ずしも酸性環境に特化しているわけではありません。Acidobacterium属自体も、当初は鉱山廃水のような酸性の場所から発見されましたが、その後の研究で淡水、通常の土壌、さらには海洋生物であるヒザラガイの体内からも分離されており、多様な環境に適応する能力を示しています。

さらに興味深いことに、培養されていない系統の中には、光合成を行う能力を持つ細菌「Ca. Chloracidobacterium thermophilum」も含まれていることが報告されています。これは、従来シアノバクテリアなどの一部の細菌群に限定されると考えられていた光合成能力が、アキドバクテリウム門の一部にも存在することを示しており、この門の生態的な多様性の広がりを示唆しています。

主な分類群

アキドバクテリウム門は、現在いくつかの綱に分類されています。インプット情報で触れられている主な綱は以下の通りです。

ホロフォガ綱 (Holophagae)
主に嫌気的な環境に生息する細菌を含みます。例として、石油汚染帯水層のGeothrix fermentansや無酸素泥のHolophaga foetida（いずれも嫌気性）、ヒザラガイから分離されたAcanthopleuribacter pedisなどが知られています。

ブラストカテッラ綱 (Blastocatellia)
サバンナ土壌などの陸上環境に多く、好気性で中性から弱酸性、中温～好熱性の種が含まれます。光合成を行うCa. Chloracidobacterium thermophilumもこの綱に属します。多様な生態を持つグループです。

テルモアナエロバクルム綱 (Thermoanaerobaculia)
インプット情報では、深海熱水噴出孔から発見されたThermotomaculum hydrothermaleのみを含むとされています。この細菌は嫌気性で高い温度を好む好熱菌（37-60℃）、タンパク質などを発酵する従属栄養菌です。

ウィキナミバクテル綱 (Vicinamibacteria)
森林土壌や草地などから見つかる好気性で中性、中温性の細菌です。タンパク質などを発酵して栄養を得る従属栄養的な性質を持ちます。

まとめ

アキドバクテリウム門は、その高い多様性と広範な分布にもかかわらず、培養の困難さから多くの謎に包まれています。しかし、近年発展した培養に依存しない分子生物学的な手法によって、その生態的な役割や分類構造が徐々に明らかになってきています。土壌における炭素・窒素循環への寄与や、特定の環境におけるユニークな代謝能力など、環境微生物学において重要な研究対象となっています。今後の研究により、この門の持つ多様な能力や環境との相互作用がさらに解明されることが期待されます。

参考文献

* Dedysh, S. N., et al. (2018). Refining the taxonomic structure of the phylum Acidobacteria. Int. J. Syst. Evol. Microbiol. doi:10.1099/ijsem.0.003062. PMID 30325293.

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