アキリーズ (駆逐戦車)

アキリーズ駆逐戦車：第二次世界大戦の強力な対戦車兵器

第二次世界大戦後期、イギリス軍は強力な対戦車戦力を必要としていました。そのニーズに応えるべく、アメリカ合衆国で開発されたM10駆逐戦車を改良した、アキリーズ駆逐戦車が誕生しました。アキリーズは、M10の主砲を、より強力なQF 17ポンド砲に換装した点が最大の特徴です。

開発の背景：電撃戦への対抗策

第二次世界大戦初期、ドイツ軍の電撃戦は連合国に大きな衝撃を与えました。アメリカ陸軍は、この電撃戦に対抗するため、機動性に優れた軽装甲車両に強力な主砲を搭載した戦車駆逐車の開発に力を入れます。M10駆逐戦車も、このコンセプトに基づいて開発されました。M10は、M4シャーマン中戦車よりも軽装甲化され、オープントップの砲塔を持つことで軽量化と視認性の向上を図っていました。

1943年に開発されたM10は、1944年からイギリスへ供与が開始されました。搭載された3インチ砲は、従来のイギリス軍の6ポンド砲よりも強力で、ドイツ軍のIV号戦車やIII号突撃砲に対抗できる性能を有していました。しかし、イギリス軍は、当時登場しつつあったドイツ軍の新型戦車であるパンターやティーガーIに対抗するには、より強力な火器が必要であると認識していました。このため、M10の主砲を17ポンド砲に換装する計画は、M10の供与開始以前から検討されていました。

17ポンド砲の威力：パンターやティーガーIへの対抗

アキリーズに搭載されたQF 17ポンド砲は、口径は3インチ砲と同じ76.2mmでしたが、装薬量の増加により砲弾の初速が向上しました。風防被帽付徹甲弾（APCBC弾）を使用した場合、457mの距離で132mm、914mの距離で128mmの装甲を貫通する能力を有していました。これは、パンターやティーガーIの主砲に匹敵する威力でした。さらに、装弾筒付徹甲弾（APDS弾）を使用すれば貫徹力はさらに向上しましたが、第二次世界大戦中はAPDS弾の精度や供給に課題があったため、あまり運用されませんでした。

M10の砲架は17ポンド砲の搭載に十分な余裕を持っていたため、車両への改造は最小限で済みました。砲身の先端にはバランスを取るためのカウンターウェイトが取り付けられましたが、このカウンターウェイトが、ドイツ軍にアキリーズの危険性を認識させる結果となりました。そのため、アキリーズの主砲には、M10と区別するための塗装が施されるケースもありました。

改造とバリエーション：M10 Achilles I/II, IC/IIC

M10には初期型、中期型、後期型の3つのモデルが存在し、イギリス軍は、初期/中期型砲塔を持つものをM10 Achilles I、後期型砲塔を持つものをM10 Achilles IIと分類しました。これらに17ポンド砲を搭載したタイプには、形式末尾に「C」を付け、M10 Achilles IC、M10 Achilles IICと分類しました。アキリーズの生産は、主に後期型砲塔のM10 IIからの改造が行われましたが、中期型砲塔に17ポンド砲を搭載したM10 ICも生産されました。

生産と運用：ノルマンディー上陸作戦から終戦へ

イギリス軍は、当初ノルマンディー上陸作戦までに1,000両のM10をアキリーズに改造する計画でしたが、実際には1944年春頃に改造作業が開始され、ノルマンディー上陸作戦開始までに改造されたのは100両程度でした。その後、改造作業は加速し、最終的に約1,100両のアキリーズが生産されました。

アキリーズは、イギリス陸軍の対戦車連隊に配備され、ノルマンディー上陸作戦から終戦まで、西部戦線やイタリア戦線で活躍しました。チャーンウッド作戦では、イギリス軍第62対戦車連隊のアキリーズが、ドイツ軍第12SS装甲連隊の戦車13両を撃破する戦果を上げました。戦後も、ベルギー、オランダ、デンマーク、エジプトなどへ供与され、第二次中東戦争や朝鮮戦争にも投入されました。

アキリーズの現在：博物館での展示

現在、イギリス、アメリカ、ドイツ、イスラエルなどの戦車博物館で、アキリーズの実車が展示されています。これらの展示車両の中には、フランス製の煙幕発射機を装備するなど、運用国によって様々な改造が施された車両も含まれています。アキリーズは、第二次世界大戦における重要な対戦車兵器として、歴史にその名を刻んでいます。

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