APDS

APDS（装弾筒付徹甲弾）

APDS（Armor Piercing Discarding Sabot：装弾筒付徹甲弾）は、戦車の主砲やCIWS（近接防御火器システム）などに用いられる砲弾の一種で、敵戦車の装甲を貫徹することに特化した設計がなされています。日本語では「装弾筒付徹甲弾」と呼ばれます。後に開発されたAPFSDS（装弾筒付翼安定徹甲弾）と区別するため、APDS-SS（Armor Piercing Discarding Sabot-Spin Stabilized）と表記されることもあります。

理論

APDSは、従来の高速徹甲弾が抱えていた問題を解決するために開発されました。

徹甲弾の装甲貫徹能力は、運動エネルギーに大きく依存します。運動エネルギーを高めるには、砲弾の質量を大きくし、発射速度を向上させるのが有効です。しかし、大口径の砲や大量の装薬を使用すると、砲の重量が増加し、反動も大きくなるため、陸上を移動する戦車などの兵器には不向きです。特に、戦線の最前線に立つ戦車は、発射の際に地面から反力を得るのが難しく、深刻な問題となります。

発砲時には、砲弾の運動量に応じた反動が生じます。運動量は質量と速度に比例し、運動エネルギーは質量と速度の二乗に比例します。そのため、反動を一定に保ちながら運動エネルギーを向上させるには、砲弾を軽量化し、高速で発射するのが効果的です。この概念に基づいて開発されたのが高速徹甲弾でした。

砲弾の直径が小さいほど空気抵抗が減少し、飛翔中の速度低下を抑制できます。また、装甲に接触する面積が小さくなるため、装甲からの抵抗が減り、貫徹力が高まります。つまり、矢のような形状が装甲貫徹には理想的です。しかし、高速徹甲弾は弾体の大部分が比重の軽い合金で構成されているため、空気抵抗が大きく、遠距離では急速に運動エネルギーを失い、遠距離砲戦には不向きでした。さらに、砲弾の直径が小さいと、発射時に砲身内で装薬の爆発力を受け止める断面積が限られ、砲弾に与えられる運動量が制限されるという問題もありました。大口径の砲弾を使用する方が発射時の運動量では有利ですが、空気抵抗の削減とは相反する状況でした。

これらの課題を克服するために開発されたのがAPDSです。その基本思想は、「砲弾は発射時のみ断面積を大きくし、発射後は重く細長い弾体のみを飛翔させる」というものです。発射時には、弾体の尾部に軽量な装弾筒を装着し、この装弾筒で爆発力を受け止めます。砲口から射出後、装弾筒は分離され、比重が大きく空気抵抗の小さい弾体のみが目標に向かって飛翔します。発射時に運動エネルギーは弾体と装弾筒の質量に応じて配分されますが、装弾筒の分離によって失われる運動エネルギーはごくわずかです。

APDSは砲弾の直径が小さいため、装甲から受ける抵抗が少なくなり、装甲貫徹力は向上しますが、一方で跳弾を起こしやすいという欠点もあります。そのため、APDSが広く使用された第二世代主力戦車には、避弾経始（砲弾を弾きやすい傾斜）を重視した設計が多く見られました。

構造

APDS弾は、タングステン合金や鋼鉄などの重金属で作られた弾体と、軽金属製の装弾筒で構成されています。全体の質量を軽くすることで、高初速（約1,000m/s）を実現しています。これは、運動エネルギーが質量に比例し、速度の2乗に比例するため、質量を抑えつつ速度を上げることで破壊力を高めるという設計思想に基づいています。発射時、火薬ガス圧は弾体と装弾筒の両方で受け止めますが、装弾筒は砲口から射出後に空気抵抗によって分離され、弾体のみが目標に向かって飛翔します。

弾体の細長さは、L/D比（長さ/直径）で表されます。APDSのL/D比は約6程度です。

弾道安定は、ライフリングによる回転で実現されますが、L/D比が大きすぎると安定性が損なわれるという問題があります。そのため、安定翼を用いて弾道安定性を高めたAPFSDSが開発されることとなりました。

関連項目

徹甲弾
砲弾
大砲
弾丸

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