アクティブスタビリティコントロール

アクティブスタビリティコントロール（ASC）

アクティブスタビリティコントロール（Active Stability Control, ASC）は、日本の自動車メーカーである三菱自動車工業が開発した、車両の運動性能および安全性を向上させるための制御システムです。主に、車両がカーブを曲がる際などに発生しやすい不安定な挙動、具体的には進行方向から外側に膨らんでしまうアンダーステアや、反対に車両が過度に内側に切れ込みスピン状態に陥る可能性のあるオーバーステアといった現象を抑制することを目的としています。

システムの基盤と原理

ASCは、既に広く普及しているアンチロックブレーキシステム（ABS）の技術を基盤としています。ABSは、急ブレーキ時に車輪がロックして操舵不能になるのを防ぐシステムですが、ASCはこのABSが持つ個別の車輪に対して独立してブレーキ圧力を調整できる機能を応用しています。これにより、必要に応じて特定の車輪にのみブレーキをかけたり、そのブレーキ力を細かく制御したりすることが可能となっています。

このシステムは、ドイツのロバート・ボッシュ社が持つ横滑り防止装置に関する特許技術も活用しており、車両の安定性を総合的に管理します。

動作のメカニズム

ASCが車両の安定性を維持するために利用する情報は多岐にわたります。具体的には、四輪それぞれに備え付けられた車輪速度センサーからの回転速度信号、車両がカーブを曲がる際に発生する横G（コーナリングG）を検出するセンサー、そしてドライバーのハンドルの切れ角を検出するセンサーなどが挙げられます。これらのセンサーから得られる情報を車両中央の制御ユニット（ECU）がリアルタイムに統合的に解析します。

解析の結果、車両がドライバーの意図した進行方向から外れて不安定な状態になりつつあると判断した場合、ASCは自動的に介入を開始します。たとえば、車両がカーブで外側に膨らみそうになっている状況（アンダーステア傾向）では、通常、進行方向と逆側の車輪、特に後輪から前輪にかけて、システムが必要と判断した強さでブレーキを自動的に作動させます。これにより、車両にヨーモーメント（旋回力）を発生させ、本来のカーブの軌道に戻そうとします。

さらに、車両がオーバーステアによってスピンするような極めて不安定な状態に陥ったとシステムが判断した場合、ASCはより積極的に介入します。この際には、進行方向内側の車輪や前側の車輪など、状況に応じて最適な車輪にブレーキをかけ、車両の回転を抑え、姿勢を立て直すための制御を行います。これらのブレーキ制御は、ドライバーがアクセルやブレーキを操作しているかどうかにかかわらず、自動的に、かつ瞬時に行われます。

効果と重要性

アクティブスタビリティコントロール（ASC）は、ドライバーが予期しない路面状況の変化や、限界に近いコーナリング時などにおいて、車両の安定性を劇的に向上させるシステムです。人間の反応速度では対応が難しいような状況でも、システムが正確かつ迅速に介入することで、スピンやコースアウトといった危険な状況を回避する確率を高めます。

これにより、ドライバーはより安心して運転することができ、特に高速走行時や悪天候時の安全性が向上します。現代の自動車においては、ABSやトラクションコントロールシステム（TCL）といった他の車両運動制御システムと連携し、車両全体の運動性能と安全性能を高める上で不可欠な技術の一つとなっています。ASCは、単に車両の性能を引き出すだけでなく、緊急回避能力を高め、交通事故の低減にも大きく貢献しています。

三菱自動車のAWC（All Wheel Control）のような統合的な四輪制御システムの一部として組み込まれることもあり、車両のポテンシャルを最大限に引き出しつつ、高い安全性を両立させるための重要な役割を担っています。

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