アクリル装飾

概要

アクリル装飾（アクリルそうしょく）とは、テレビ番組、CM、映画、舞台、イベントなどの現場において、アクリル樹脂素材を用いたセットや小道具の企画、製作、設置、装飾を一手に担う専門職、あるいはその職務を行うスタッフを指します。映像表現や空間演出に透明感、特殊な光の反射、洗練されたデザインをもたらす上で重要な役割を果たします。

歴史

この専門職が日本のメディア業界で確立されたのは、1980年代頃のテレビ業界、特にフジテレビが起源とされています。当時のテレビ美術制作においては、セットの多くがベニヤ板などの木材を主体として大道具によって制作されていました。しかし、演出表現の多様化に伴いアクリル素材の活用が増加し、その加工や設置には専門的な技術と知識が不可欠となりました。このため、従来の「大道具」が兼任していたアクリル関連の作業を分離・専門化させる形で「アクリル装飾」という新たな職務区分が設けられたと言われています。この分業化により、美術制作の効率化と各分野の専門性向上に貢献しました。現在では、多くのテレビ番組や舞台、各種イベント制作において、アクリル装飾は美術チームの中で欠かせない専門職として広く認識されています。

仕事内容

アクリル装飾の業務は、大道具から派生した経緯もあり、多くの場合、大道具チームと密接に連携しながら進められます。具体的な仕事内容は多岐にわたりますが、主に以下のような作業が含まれます。

製作: 美術デザイナーの意図や設計図に基づき、アクリル板を精密に加工します。切断、研磨、接着、加熱による曲げ加工、穴あけなど、様々な技法を駆使して、テーブル、椅子、ひな壇、展示ケース、オブジェ、壁面装飾、特殊効果用パーツなどを製作します。高い透明度や表面の滑らかさが求められる場合が多く、熟練した技術が必要です。
設置・組み立て: 製作が完了したセットや小道具を撮影スタジオや舞台会場に運び込み、決められた場所に安全かつ正確に設置・組み立てを行います。他の美術セット、照明、カメラワークなどを考慮しながら、限られた時間内に迅速に対応する必要があります。
養生（床保護）: テレビスタジオの床材は高価で傷つきやすいため、セットの搬入出経路や、カメラなどが頻繁に移動するエリア、重い機材を設置する場所などに、大型で丈夫なアクリル板を敷き詰めて床を保護する「養生」作業も、アクリル装飾の重要な業務の一つです。
装飾・仕上げ: 製作物の表面に塗装、シート貼り、特殊コーティングなどを施したり、照明効果を考慮した仕上げを行ったりします。美術全体の雰囲気に調和させ、意図通りの視覚効果を生み出すための最終調整を行います。
撤去・片付け: 撮影や公演が終了次第、速やかにセットや小道具を解体し、会場からの撤去作業を行います。倉庫への搬送や、再利用が難しいものの適切な廃棄処理なども担当します。

大型のアクリル板や完成品を扱う機会が多いため、力仕事が伴うことも少なくありません。これまで、体力的な側面から男性の比率が高い傾向にありましたが、近年では技術の進化や機材の改善、そして個々の才能が重視されるようになり、女性のアクリル装飾スタッフも増加しており、多様な人材が活躍しています。

関連情報

有名な従事者: 平山晃哉（フジテレビの美術スタッフとしてアクリル装飾の業務に携わる傍ら、音楽ユニット「野猿」のボーカルとしても活動していました。）
* 関連企業例: 株式会社ナカムラ綜美 など、テレビ美術や舞台美術を手がける企業の中にアクリル装飾の部署や専門スタッフがいます。

アクリル装飾は、映像や舞台空間に透明感や現代的な感覚、特殊な視覚効果をもたらす上で不可欠な、高度な技術と創造性を兼ね備えた専門職と言えます。

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