アグネス・フォン・ヘッセン

アグネス・フォン・ヘッセン：愛と陰謀の狭間で生きたザクセン公爵夫人

1527年、ヘッセン方伯フィリップ1世とザクセン公爵令嬢クリスティーナの間には、アグネスという娘が誕生しました。彼女は恵まれた環境で育ちましたが、人生は平穏なものではありませんでした。ブラウンシュヴァイク＝リューネブルク公エーリヒ2世との婚約は解消され、その後、1544年、ザクセン選帝侯モーリッツと結婚します。

この結婚は、当時としては異例なものでした。アグネスとモーリッツは、自らの意思で結婚を決めたのです。残された手紙から、二人は強い信頼関係で結ばれていたことが窺えます。モーリッツはアグネスに政治的な問題についても打ち明け、彼女の意見を尊重していた様子が伺えます。アグネスは夫の死後、妹たちの面倒を積極的に見ていました。母クリスティーナが亡くなった1549年以降、その責任はより一層大きくなったと考えられます。

しかし、幸せな結婚生活は長くは続きませんでした。モーリッツは1553年、ジーヴァスハウゼンの戦いで負った傷が悪化し、死去します。悲しみに暮れるアグネスでしたが、1555年、ザクセン公ヨハン・フリードリヒ2世と再婚します。しかし、この結婚はわずか半年で終わります。アグネスは妊娠中に流産し、そのまま亡くなってしまったのです。

アグネスの死因は、いまだに謎に包まれています。流産が直接の死因だった可能性が高い一方、ヴァイマルのヘルダー教会の聖歌隊員の中には、彼女が毒殺されたと主張する者もいます。この説の裏付けとなる証拠は見つかっていませんが、アグネスの最初の夫モーリッツと敵対関係にあったヨハン・フリードリヒ2世との結婚という事実が、この憶測を生んでいる背景には、政治的な思惑が絡んでいる可能性も考えられます。当時、アルベルティン家とエルネスティン家という勢力抗争が激しく、アグネスがエルネスティン家に秘密情報を漏らすのではないかとアルベルティン家が恐れたという説も存在します。アグネスの死は、単なる不幸な事故ではなく、複雑な政治的駆け引きの中で起きた悲劇であった可能性も否定できないのです。

アグネスとモーリッツの間には二人の子供がいました。長女アンナは、オラニエ公ウィレム1世と結婚しました。一方、息子アルブレヒトは幼くして亡くなっています。

アグネス・フォン・ヘッセンの人生は、愛と裏切り、そして運命の皮肉に満ちたものでした。彼女の死は、歴史の闇に隠されたまま、多くの謎を残しています。彼女の生涯を研究することで、16世紀ヨーロッパの政治状況や、当時の女性たちの生き様について、より深く理解することができるでしょう。今後の研究によって、彼女の死の真相が明らかになることを期待したいところです。

参考文献

Politische Korrespondenz des Herzogs und Kurfürsten Moritz von Sachsen, 6 Bde., Berlin 1902–2006

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