アシナヅチ・テナヅチ

アシナヅチ（足名椎、足名鈇、脚摩乳）とテナヅチ（手名椎、手摩乳）は、日本神話に登場する神で、夫婦神として知られています。別名としてアナヅチ、タナヅチとも呼ばれます。

概要

この夫婦神は、ヤマタノオロチ退治の神話において、スサノオによって救われることになるクシナダヒメの両親として登場します。アシナヅチは『古事記』で「足名椎」、テナヅチは「手名椎」と表記され、『日本書紀』ではそれぞれ「脚摩乳」、「手摩乳」と記されています。この表記の違いは、神話の伝承におけるバリエーションを示唆しています。

神話における記述

アシナヅチとテナヅチは、オオヤマツミの子とされ、出雲国の肥河（ひかわ）の上流、鳥髪（とりかみ）（現在の島根県奥出雲町鳥上）に住んでいました。彼らには8人の娘（八稚女）がいましたが、毎年ヤマタノオロチがやって来て娘たちを一人ずつ食べてしまっていたとされています。スサノオが鳥髪に降り立った時、夫婦が最後に残った末娘クシナダヒメを失う寸前でした。アシナヅチとテナヅチは、スサノオがオロチを退治する代わりにクシナダヒメを妻として差し出すことを了承します。その後、スサノオはクシナダヒメを櫛に変え、安全を確保します。オロチ退治の際には、スサノオの指示に従い、八つの門を作り、それぞれに濃い酒の入った桶を準備しました。この策略がオロチを酔わせ、スサノオによる退治を成功させる一助となります。

スサノオがオロチを退治した後、須賀の地に宮殿を建てると、アシナヅチはスサノオによって宮の首長に任じられ、「稲田宮主須賀之八耳神（イナダノミヤヌシスガノヤツミミ）」という名を与えられました。この神名は、『日本書紀』では「稲田宮主神」と記されています。

神名の由来

アシナヅチとテナヅチの名前の由来については、いくつかの説があります。

「ナヅ」は「撫づ（撫でる）」、「チ」は精霊の意で、父母が娘の手足を撫でて慈しむ様子を表すとする説。
「アシナ」は浅稲（あさいね）で晩成の稲の意、「テナ」は速稲（といな）で早稲の意とする説。
「畔（あ）の椎」、「田（た）の椎」の対であるとする説。

これらの説は、神名の持つ意味合いを解釈する上で興味深い視点を提供します。

神社での祭祀

アシナヅチとテナヅチは、以下の神社で祀られています。

アシナヅチ

足長神社（長野県諏訪市四賀足長山） - 主祭神
氷川神社（埼玉県川越市宮下町） - 主祭神
廣峯神社（兵庫県姫路市広嶺山） - 左殿
須佐神社（島根県出雲市佐田町須佐） - 配祀

テナヅチ

手長神社（長野県諏訪市上諏訪茶臼山） - 主祭神
氷川神社（埼玉県川越市宮下町） - 主祭神
廣峯神社（兵庫県姫路市広嶺山） - 左殿
須佐神社（島根県出雲市佐田町須佐） - 配祀

これらの神社では、アシナヅチとテナヅチが地域の守り神として崇められています。特に、氷川神社では夫婦神として共に祀られていることが特徴的です。

考察

アシナヅチとテナヅチは、ヤマタノオロチ退治の物語において、単なる脇役ではなく、物語を大きく動かす重要な存在です。彼らの存在は、古代日本の家族観や神々に対する信仰を理解する上で重要な手がかりとなります。また、アシナヅチがスサノオから与えられた「稲田宮主須賀之八耳神」という名前は、この神が単なる夫婦神ではなく、地域社会を統べる役割も担っていたことを示唆しています。

アシナヅチとテナヅチは、日本神話において重要な役割を果たす神であり、その神話は日本の文化や信仰に深く根ざしています。彼らを祀る神社は、今もなお多くの人々に信仰されています。

関連情報

手長足長: 手長足長は、アシナヅチとテナヅチを起源とする説がある妖怪。
須佐氏: 須佐神社の神主家である須佐氏に伝わる系譜では、脚摩乳命と手摩乳命を須佐氏の祖神としています。

外部リンク

足名椎 – 國學院大學 古典文化学事業
手名椎 – 國學院大學 古典文化学事業
川越氷川神社の紹介｜縁結びの神様　川越氷川神社：安産、お宮参り、戌の日
境内図　神々のご利益（廣峰神社）
須佐神社 - 御案内|御祭神
* 須佐神社 - 御案内|御由緒

この詳細な解説を通じて、アシナヅチとテナヅチの神話における重要性と、その文化的背景について理解を深めていただければ幸いです。

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