アシニボイン

アシニボイン族 (Assiniboine)

アシニボイン族は、北米大陸のカナダ南部からアメリカ合衆国北部にかけて広がる大平原、特に現在のサスカチュワン州、マニトバ州南東部、アルバータ州の一部、そしてモンタナ州北東部やノースダコタ州といった地域に伝統的に居住してきたインディアン部族です。彼らの部族名は、隣接するチッペワ族の言葉に由来し、「熱した石を使って調理する者たち」を意味すると伝えられています。この名は、彼らが調理法として熱した石を用いたことにちなむと考えられています。かつては、より広大なスー族連合（ダコタ族）の一部を構成していましたが、歴史の中で独立した存在となりました。

歴史

アシニボイン族の歴史は、かつてスー族連合の一部であったことから始まります。しかし、17世紀に入ると、スー族本体との関係が悪化し、彼らはスー族の勢力圏から離れることを選び、独立した部族としてモンタナ州北東部やカナダの平原へと移動していきました。この分裂・移動の背景には、交易路や猟場の争いなど、様々な要因があったと推測されています。

新たな土地での生活は、彼らに多くの困難をもたらしました。特に、それまでの居住地域と比べてより北方に位置するカナダの平原は、冬季の厳しい寒さや深い雪に覆われることが多く、想像以上に厳しい環境でした。食料となる獲物を見つけるのも容易ではなく、部族全体、特に幼い子供たちにとって、その環境は非常に過酷なものでした。寒さに震え、飢えに苦しむ日々は、彼らの人口にも大きな影響を与えました。

分裂・移動前の人口は700人から1,000人程度と推測されていますが、厳しい環境や度重なる困難の結果、その数は激減しました。1851年にモンタナ州のリトルロッキー山脈周辺に定住していた時点では、人口は半数近くまで減少していたと記録されています。これは、移住先の環境の厳しさや、他の部族との衝突などが複合的に影響した結果と考えられます。現在、アシニボイン族の人々は、主にアメリカ合衆国のモンタナ州にあるフォート・ペック保留地などに定住しており、独自の文化や歴史を継承しようと努めています。

文化と生業

アシニボイン族は、北米大平原のインディアン部族として、主に狩猟を生業として生活を営んでいました。広大な草原を移動しながら、バッファロー（バイソン）などの大型動物を追い、その肉を食料とし、毛皮や骨を衣類、住居（ティピー）、道具などに利用する生活様式が中心でした。彼らの生活は、移動を基本とする遊牧的なものであり、平原の生態系に深く根差していました。

著名なエピソード

アシニボイン族に関連する有名なエピソードとして、ハンクパパ・スー族の偉大な呪術師であり指導者であったシッティング・ブル（タタンカ・イヨタケ）にまつわる話が語り継がれています。

ある時、シッティング・ブルが率いる戦士の一団が、偶然にもスー族の仲間からはぐれてしまったアシニボイン族の一家に遭遇し、彼らを攻撃しました。激しい戦いの末、一家のほとんどが命を落としてしまいましたが、その中に勇敢な少年がいました。両親や兄弟がすでに息絶えている中で、少年は敵に囲まれながらも、決して諦めず、小さな体で弓を引き、果敢に矢を放とうとしました。その時、少年はシッティング・ブルに向かって、敬意と助けを求めるかのように「ビッグ・ブラザー！（兄さん！）」と呼びかけたのです。

シッティング・ブルは、敵であるアシニボイン族の少年が見せたその類まれな勇敢さと、困難な状況にあっても屈しない強い精神に心を打たれました。彼はこの少年を生かし、自分の弟として迎え入れることを決意したのです。それ以来、シッティング・ブルはその少年を丁重にもてなし、実の弟のように大切に育てました。

少年はシッティング・ブルの期待に応え、彼への深い忠誠心を示しました。シッティング・ブルはその忠誠心に敬意を表し、彼に「ステイズ・バック」（決して後退しない、あるいはシッティング・ブルの傍を離れない、といった意味合いが込められていると考えられます）という名を与えました。少年は成長するにつれて、その持ち前の勇敢さを発揮し、立派な戦士となっていきました。

さらに、シッティング・ブルは彼の勇敢な成長を認め、少年に対して再び新しい名前を与えました。それは、自身の父親の名前でもある「ジャンピング・ブル」という名でした。この名前は、少年がもはや単なる「ステイズ・バック」ではなく、シッティング・ブルの父と同じくらい尊敬に値する、勇敢で力強い存在になったことを象徴しています。このエピソードは、敵対する部族間であっても、勇敢さや人間性に対する敬意が存在したことを示しており、インディアン社会における人間関係の一側面を伝える貴重な物語として語り継がれています。

また、カナダのアルバータ州とブリティッシュコロンビア州の境界にあるロッキー山脈の高峰（標高3618m）は、アシニボイン山と名付けられており、この部族の名前が地理的な名称としても残されています。

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