アシュトンテイト

アシュトンテイト：dBASEで築いた栄光と、その終焉

アシュトンテイト社は、データベースソフトウェア『dBASE』で知られる、アメリカ合衆国のソフトウェア企業として、1980年代のパーソナルコンピュータ業界において大きな成功を収めました。しかし、その栄光は長くは続かず、1991年にはボーランド社に買収されるという結末を迎えます。本稿では、アシュトンテイト社の興亡、そしてdBASEシリーズの歴史を詳細に解説します。

草創期：dBASEの誕生と急成長

アシュトンテイト社は、1980年に設立されたソフトウェア・プラス社を前身としています。当初は小さな会社でしたが、C・ウェイン・ラトリフ氏が開発したデータベースソフトウェア『Vulcan』の販売を開始したことで、状況は一変します。『Vulcan』は、商標上の問題などから『dBASE II』と改名され発売されました。 社名のアシュトンテイトは、架空の人物名「Ashton」と創業者であるジョージ・テイト氏の名を組み合わせたものです。インコの名前が由来という説も存在します。

1982年にはIBM PC版『dBASE II』がリリースされ、爆発的な売上を記録。1983年には株式公開を果たし、1984年には年間売上高4000万ドルを達成しました。この成功により、マイクロソフト社やロータス社と並ぶ、1980年代前半を代表するソフトウェア企業へと成長しました。

CEO交代と多角化戦略

1984年、創業者のテイト氏が急逝したことを受け、経営陣は交代。エド・エスバー氏がCEOに就任します。エスバー氏の7年間の在任はアシュトンテイト社の黄金時代であり、売上高は4000万ドルから3億1800万ドルへと急増しました。しかし、その一方で、dBASEの開発者であるラトリフ氏らとの対立も深まりました。ラトリフ氏は、エスバー氏との意見の相違からアシュトンテイト社を退社し、競合会社を設立しています。

エスバー氏は、アシュトンテイト社の多角化戦略として、様々なソフトウェア製品の開発や買収を行いました。ワードプロセッサ『MultiMate』、グラフ描画ソフト『Masterシリーズ』、オフィススイート『Framework』、DTPソフト『Byline』、PIMソフト『Friday!』、データベースソフト『RapidFile』など、多様な製品を市場に投入しました。しかし、これらの製品の多くは成功せず、多角化戦略は必ずしも有効とはなりませんでした。また、Macintosh版『dBASE』や関連製品の開発にも着手しましたが、PC版との互換性の問題や、競合製品の台頭により、期待された成果は得られませんでした。

dBASE IVの失敗と衰退

アシュトンテイト社の衰退を決定づけたのは、『dBASE IV』のリリースにおける不手際です。クライアントサーバーモデルに対応した製品として期待されましたが、開発の遅延やバグの多さにより、ユーザーからの評判は最悪なものとなりました。この隙を突くように、FoxBaseやClipperなどの『dBASE』クローン製品が市場シェアを拡大していき、『dBASE』の優位性は失われていきました。さらに、マイクロソフト社の『Microsoft Access』の登場も追い打ちをかけました。

ボーランド社による買収とその後

アシュトンテイト社は、数年にわたって他社との合併を模索していました。しかし、ロータス社などとの合併交渉は不調に終わり、最終的に1991年にはボーランド社に買収されました。ボーランド社は既に『Paradox』というデータベース製品を保有していたため、アシュトンテイト社の買収は競合製品の統合を目的としたものでしたが、統合はうまくいかず、新たな『dBASE for Windows』の開発も失敗に終わりました。結果として、ボーランド社にとってもアシュトンテイト社の買収は失敗であったといえます。 『dBASE』と『InterBase』は、現在も開発・販売が続けられていますが、かつての輝きは失われています。

まとめ

アシュトンテイト社は、dBASEという画期的なソフトウェアで成功を収めたものの、経営陣の交代、多角化戦略の失敗、『dBASE IV』の不手際、そして競合製品の台頭など、様々な要因が重なり、短期間で衰退していきました。彼らの歴史は、ソフトウェア業界の激しい競争と、成功と失敗の両面を物語る、重要な事例となっています。 また、彼らの製品開発やマーケティングにおける成功と失敗は、現代のソフトウェア開発においても貴重な教訓となるでしょう。

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