IBM PC

IBM PC (IBM 5150): パーソナルコンピュータ革命の礎

1981年8月12日、IBMは世界を変革する一台のパーソナルコンピュータを発表しました。その名はIBM PC（正式名称: IBM Personal Computer、型番: IBM 5150）。 大型コンピュータで名を馳せていたIBMによるこのPCは、既存の大型機とは全く異なるアプローチで開発され、後のPC市場に革命を起こすことになります。

開発と市場投入

IBM PCの開発は、フロリダ州ボカラトンの社内ベンチャー組織（後に端末機事業部EDSに発展）において、ドン・エストリッジ率いるわずか14名のチームによって進められました。彼らは、当時の慣習にとらわれず、市販の部品を積極的に採用。IBM製の半導体は一切使用せず、ソフトウェアも外部調達するという、IBMとしては異例ともいえる大胆な戦略をとりました。

開発期間は約1年。短期間での製品化を目指し、CPUやメモリなどのハードウェア、OSといったソフトウェアを様々な企業から調達するOEM戦略が採られました。当初の目標は家庭市場への参入でしたが、結果的にはビジネス市場での成功が大きくなり、シアーズ・ローバックなどの小売業者との協業も進められました。

IBM PCのスペックは、当時の競合機と比較すると際立って優れたものではありませんでした。しかし、そのオープンアーキテクチャ、つまり技術仕様を公開したことが、大きな成功要因となりました。サードパーティーが続々と拡張カードや周辺機器、ソフトウェアを開発・販売するようになり、IBM PCの有用性を飛躍的に向上させたのです。

ハードウェアとソフトウェア

IBM PCの基本仕様は、4.77MHzのIntel 8088 CPU、16KB～256KBのメモリ、160KBのフロッピーディスクドライブ（オプション）、オプションのディスプレイアダプタ（MDAまたはCGA）などでした。ROMにはMicrosoft GW-BASICが搭載され、カセットテープインターフェースも備えていました。拡張スロットを5つ備え、拡張性の高さが大きな魅力でした。

ソフトウェアにおいては、MicrosoftのMS-DOSが主要なOSとして採用されました。この決定は、後のマイクロソフトの隆盛にも大きく影響することになります。また、ROM-BASICの存在も、初心者にとってのアクセスしやすさに貢献しました。

キーボードと文字コード

IBM PCのキーボードは、当時としては非常に高品質で堅牢なものでした。キーストロークの耐久性が高く、ユーザーに高品質なイメージを与えました。これは、後に出る低価格なキーボードを採用したIBM PCjrの失敗と比較して、その重要性が改めて認識されることになります。しかし、初期モデルではリターンキーやシフトキーの位置が非標準だったため、批判の声も上がりました。

文字コードは、7ビットASCIIをベースとした独自の8ビット拡張コードを使用していました。これは国際的なアプリケーションには不向きだったため、多くの企業が独自の国際版を提供するようになりました。後の標準化された文字コード体系に置き換えられることになります。

記憶装置と周辺機器

標準の記憶媒体はカセットテープでしたが、実際にはフロッピーディスクドライブが必須でした。IBM PC XT以降はハードディスクドライブも搭載されるようになり、大容量のデータ保存が可能になりました。様々な容量やインターフェースのハードディスクやフロッピーディスクドライブが、サードパーティーから提供されました。

IBM PCファミリーと互換機

IBM PCの成功を受けて、IBMはXT、AT、PCjr、ポータブルPCなど、様々な後継機種を発売しました。また、IBM PCのアーキテクチャを模倣したIBM PC互換機が数多くの企業から登場し、PC市場は爆発的に拡大しました。これらの互換機は、BIOSのクリーンルーム設計などの手法を用いて、合法的に製造されました。互換機の存在は、IBM PCアーキテクチャのデファクトスタンダード化に大きく貢献しました。

歴史的影響

IBM PCは、そのオープンアーキテクチャとビジネス市場への浸透により、PC市場のデファクトスタンダードを確立し、インテルのx86アーキテクチャ、マイクロソフトのMS-DOSの普及を加速させました。しかし、IBMはその後、OS/2などの戦略で市場の主導権を取り戻そうと試みますが、成功せず、最終的にPC事業をレノボに売却しています。IBM PCは、現代のコンピューティングの基礎を築いた歴史的な存在なのです。

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