アジア排斥同盟

アジア排斥同盟とは

アジア排斥同盟（Asiatic Exclusion League、略称AEL）は、20世紀初頭にアメリカ合衆国とカナダで結成された、アジア系移民の排斥を目的とした組織です。この組織は、両国における白人至上主義的な風潮を背景に、労働組合を中心に結成されました。その活動は、アジア系移民の制限や排除を求める運動、暴動などを引き起こし、両国の移民政策に大きな影響を与えました。

アメリカ合衆国における活動

1905年5月14日、サンフランシスコで67の労働組合によってアジア排斥同盟が結成されました。初期のメンバーには、サンフランシスコの建設労働組合評議会所属で市長も務めたP.H. McCarthyや、海員組合のAndrew Furusethなどがいました。同盟の目的は、反アジアのプロパガンダを広め、アジア系移民を制限する法律を制定させることでした。特に、日本人、中国人、朝鮮人が主な標的とされました。

同盟はサンフランシスコの教育委員会に圧力をかけ、アジア系児童を分離することに成功しました。1908年には231の組織が提携し、そのうち195が労働組合でした。カリフォルニア州検事総長Ulysses S. Webbは、アジア人の財産所有を制限する法律の制定に尽力しました。

カナダにおける活動

カナダのアジア排斥同盟は、アメリカの同盟の姉妹組織として、1907年8月12日にバンクーバーで結成されました。スローガンは「東洋人をブリティッシュコロンビアに入れるな」でした。

同盟の活動は、1907年のバンクーバー暴動を引き起こしました。アメリカでの転航禁止令によって日本からの移民がカナダに急増したことが背景にあります。また、カリフォルニア州での排日運動も影響を与えたと考えられています。

1907年9月7日、同盟のメンバーは市役所前で人種差別的な演説会を開き、アジア系移民の入国制限を訴えました。演説に刺激された群衆は、バンクーバーのチャイナタウンと日本人街を襲撃しました。チャイナタウンでは投石などによる破壊行為が行われましたが、日本人街では住民が反撃し、衝突が発生しました。この事件は「排日暴動」として報道され、カナダ全土で注目を集めました。

カナダ政府は事件を重く見て調査委員会を設置し、日本へ特使を派遣しました。被害者への損害賠償として、日本人には9000ドル、中国人には26000ドルが支払われました。暴動後、同盟は一時的に勢力を増しましたが、翌年以降は衰退しました。しかし、1920年代初頭に再び勢力を増し、1923年の華人移民法の成立に影響を与えました。

アジア排斥同盟の影響

アジア排斥同盟が引き起こしたバンクーバー暴動は、間接的にカナダ最初の薬事法の制定に影響を与えました。労働次官ウィリアム・ライアン・マッケンジー・キング（後の首相）が暴動による補償請求の調査を行った際、アヘン製造業者からの請求が発覚し、民間における薬物販売状況の調査が行われました。キングは、アヘン消費が白人女性にも広がっていることに危機感を抱き、薬用以外の目的でのアヘン製造・販売・輸入を禁止する連邦法が制定されました。

また、マッケンジー・キングは第二次世界大戦中にカナダ首相となり、戦時中に再び排日運動が大きくなった際、バンクーバー暴動の記憶から、日系人の太平洋岸からの強制移動・強制収容を実施しました。

関連情報

関連文献
日本外交文書第40巻第3冊(明治40年／1907年)
Peter Ward, White Canada Forever: Popular Attitudes and Public Policy Toward Orientals in British Columbia. 3rd ed. Montreal and Kingston: McGill-Queen’s University Press.1978,2002.
Sugimoto,H.H.,Vancouver Riot of 1907:A Canadian Episode,in Conroy,H.＆Miyakawa,T.S.,eds.East across the Pacific,Santa Barbara American Bibliographical Center CLIO Press,1972
高村宏子「ヴァンクーヴァー暴動」世界民族問題事典.
関連項目
白人至上主義
日系人
日系アメリカ人
日系カナダ人
日系人の強制収容
外部リンク
Asiatic Coolie Invasion on the Virtual Museum of San Francisco.
History of Metropolitan Vancouver by Chuck Davis

アジア排斥同盟の活動は、当時の社会における人種差別と排他的な風潮を象徴する出来事であり、現代社会においても、人種差別や偏見の問題を考える上で重要な教訓となります。

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