アステロパイオス

アステロパイオス（古希: Ἀστεροπαῖος, Asteropaios）は、古代ギリシアの神話に登場する著名な戦士である。彼の系譜は神々に連なり、河神アクシオスと、アケッサメノスの娘ペリボイアの息子ペラゴーンの子として生まれた。

トロイア戦争への参戦

壮大な叙事詩ホメロス作『イリアス』に描かれるトロイア戦争が勃発すると、アステロパイオスは故郷パイオニア地方を代表する勇士として、指導者ピューライクメースに率いられた同盟軍の一員としてトロイア側に加勢した。彼はその並外れた膂力と、特に両手で自在に槍を操る類稀な能力によって、参戦したパイオニア勢の中で最高の武勲を持つ戦士と認められていた。

戦況が進み、トロイア勢がギリシア軍の築いた堅固な防壁に攻撃を仕掛けた際、アステロパイオスはリュキア人の英雄サルペードーンによって、グラウコスと共に副将に任じられ、重要な局面で指揮の一翼を担った。

アキレウスとの決闘

しかし、アキレウスが親友パトロクロスの仇を討つべく戦場へと復帰すると、戦局は大きく傾く。アキレウスの圧倒的な強さの前に、アステロパイオスを含む多くのトロイア側戦士は、激しい流れで知られるスカマンドロス河畔へと追いやられた。アキレウスが河の中で無慈悲な殺戮を続ける様子を見た河神スカマンドロスは、自らの領域を汚されたことに激怒し、アステロパイオスに立ち向かうための神聖な勇気を授けた。

神の加護を受けたアステロパイオスは、その特技である両手での槍術を駆使し、二本の槍を同時にアキレウス目掛けて投擲した。アキレウスは驚きながらも青銅の盾で防いだが、一本の槍は彼の右腕をかすめ、傷を負わせて血を流させたのである。これは、アキレウスに傷を負わせた数少ない一例として特筆される。

アキレウスは即座に反撃し、アステロパイオスに向かって強力な一撃を放った。アステロパイオスはこれを素早くかわしたが、槍は背後の土手に深く突き刺さってしまった。彼はその槍を引き抜き、再びアキレウスと戦おうと試みた。しかし、槍はあまりにも深く刺さっており、並外れた力の持ち主であるアステロパイオスでさえ、瞬時には引き抜くことができなかった。

その一瞬の隙を、無敵の英雄アキレウスは見逃さなかった。彼は素早く剣を抜き放つと、槍を引き抜こうと苦闘するアステロパイオスに斬りかかり、その命を奪ったのである。指導者を失ったパイオニア勢は混乱に陥り、アキレウスによってさらに多数の戦士が討たれた。このアステロパイオスの死を目にした河神スカマンドロスは、再び激しい怒りに駆られ、大洪水を起こしてアキレウスに襲いかかったと伝えられている。

死後の扱いと後世の評価

アステロパイオスがアキレウスによって討ち取られた後、彼の所有していた優れた武具は戦利品としてアキレウスの手に渡った。後にアキレウスは、親友パトロクロスの盛大な葬礼競技を開催した際に、これらの武具を競技の豪華な賞品とした。特に、アステロパイオスが愛用していた、遠方のトラキアで作られた見事な大剣は、ギリシア軍の英雄ディオメーデースに与えられたことが記録されている。

後世の歴史家や著述家たちの間では、アステロパイオスとの戦いは、トロイア戦争におけるアキレウスの数多くの武功の中でも特に重要な一幕として語り継がれている。哲学者のピロストラトスは、自身の著作『英雄が語るトロイア戦争』の中で、アステロパイオスはトロイア軍最強と目される英雄ヘクトールですらアキレウスを恐れさせた存在であったが、アステロパイオスはアキレウスとの直接対決において、ヘクトール以上にアキレウスを畏怖させた人物であった、とその武勇と勇敢さを高く評価している。

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