アストラ (航空宇宙企業)

アストラ（Astra）

アメリカ合衆国カリフォルニア州アラメダに拠点を置く航空宇宙企業です。2016年10月、クリス・ケンプ氏とアダム・ロンドン氏によって設立されました。創業当初はその活動が秘匿されており、「ステルススペースカンパニー」として一部で報じられましたが、後にブルームバーグのアシュリー・バンス氏の記事で正式な社名であるAstra Space, Inc.が公にされました。

小型ロケット開発への挑戦

アストラの主要な事業の一つは、小型衛星を軌道へ投入するための小型ロケット開発です。初期には試験機として「ロケット1.0」や「ロケット2.0」が製造されましたが、これらはいずれもペイロードを搭載しない試験打ち上げで失敗に終わりました。その後、主力機として開発が進められたのが「ロケット3」シリーズです。

ロケット3の開発過程は、数々の技術的な困難と打ち上げ失敗に直面する道のりでした。2020年3月23日には、打ち上げリハーサル中に機体を喪失する事故が発生しています。さらに、衛星軌道への到達を目指した打ち上げ試みでも失敗が相次ぎました。特に、3機目の打ち上げでは宇宙空間に到達したものの、燃料と酸化剤の混合比の誤りにより、上段部分を安定した軌道に乗せることができませんでした。アストラはこの結果をもってミッションの目的は一定程度達成されたと判断し、次なる打ち上げでは商用ペイロードを搭載することを決定しました。

しかし、続く4機目にあたる「ロケット3.3」(LV0006)は、2021年8月28日にアメリカ宇宙軍のペイロードを搭載して打ち上げられたものの、離昇からわずか1秒後にエンジンのうち1基が停止するという致命的な問題が発生。機体は高度約50kmに達したものの、宇宙空間、そして軌道には到達できませんでした。

度重なる失敗を経て、アストラにとって初の衛星軌道へのロケット打ち上げ成功は、2021年11月20日午前6時16分（協定世界時）に実現しました。「ロケット3.3」(LV0007)と名付けられたこの機体は、アラスカ州コディアックにある太平洋宇宙港複合施設（PSCA）から打ち上げられ、アメリカ国防総省のデモ用ペイロードを無事軌道へ投入しました。

この初の成功はアストラの株価に大きな好影響を与え、一時的に42%も急騰しました。しかし、「ロケット3」シリーズ全体を通して見ると、累計8回の打ち上げ試行のうち、軌道投入に成功したのは前述の2回のみに留まりました。結局、度重なる失敗からの完全な回復に至らないまま、2022年8月には「ロケット3」の運用終了が発表されました。

アストラはかつて、「ロケット3」の改良型である「ロケット4」、および「ロケット3」を基にしたサブオービタル二地点間輸送用の派生型「ロケット5」の開発計画を示唆していました。しかし、その後の経営状況の変化に伴い、2023年8月には従業員の約4分の1にあたる人員削減を実施すると同時に、ロケット開発部門の従業員を衛星関連部門へ再配置する方針を明らかにするなど、事業の重点に変化が見られます。

衛星バス開発と経営の変遷

ロケット開発と並行して、アストラは顧客が自身のペイロードを搭載できる衛星バスの開発も進めています。最初の試験機は2022年に打ち上げられる計画があり、顧客への提供は2023年を予定していました。

アストラは2021年、SPAC（特別買収目的会社）との合併を通じてNASDAQ市場への上場を果たしました。この上場は大きな注目を集め、一時は株価が1株15ドルに達し、時価総額は21億ドルを超えるなど、投資家からの期待を集めました。しかし、主力であるロケット3の相次ぐ打ち上げ失敗は、企業の信頼性と財務状況に深刻な影響を与え、経営危機に陥りました。破産という事態を回避するため、2024年には創業者が中心となり、発行済みの全株式を1株あたり0.5ドルで買い取る形での株式非公開化（MBO）を実施。これにより、アストラは上場廃止となり、非公開企業として再建を目指すこととなりました。

小型ロケット市場への参入、技術的な挑戦、そして厳しい現実という経営の浮沈を経験したアストラは、現在、非公開企業として新たな事業戦略のもと、再起を図っています。

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