アストラル体

アストラル体

神智学などの神秘主義思想において、人間を含む生命体の精妙な構成要素として考えられているのが「アストラル体」です。これは肉体に宿る複数の非物質的な身体の一つと位置づけられており、特に感情や情緒といった精神活動の中核を担うとされています。別称として、情緒体、感情体、感覚体、星辰体といった呼び方も存在します。

この「アストラル体（Astral body）」という名称は、19世紀フランスの神秘主義者エリファス・レヴィの提唱した「アストラル光（Astral Light）」の概念に由来すると考えられています。レヴィによれば、アストラル光は宇宙全体に満ちる普遍的なエネルギーであり、魔術や心霊現象、霊媒といった、いわゆるサイキック能力の発現を可能にする力の源泉とされました。感情を司るアストラル体は、こうしたサイキックな感受性や能力とも深く関連すると見なされたため、この名前が当てられたのです。

神智学の体系では、アストラル体は主に動物（人間を含む）に備わるものと解釈されます。感情的な反応や情緒的な動きは、このアストラル体の働きによるものとされます。アストラル体は単独で機能するのではなく、最も粗大な身体である肉体（およびその不可分な一部とされるエーテル体）や、思考を司るメンタル体といった他の精妙な身体と密接に連携しています。これら肉体、エーテル体、アストラル体、メンタル体の一部が組み合わさることで、個々の人間や動物の個性、すなわち「パーソナリティ（低位我）」が形成されると考えられています。

また、アストラル体は感情だけでなく、感覚器としての側面も持ち合わせているとされます。肉体にある五感などの受容器を通して得られた外部からの刺激や情報は、アストラル体を介して知覚されると言われています。つまり、私たちは肉体で世界に触れるだけでなく、アストラル体の働きによってその世界を「感じる」ことができるのです。

アストラル体が活動する次元、あるいはアストラル体が存在する場所として想定されているのが「アストラル界」です。この領域は、しばしば「グラマー（glamour）、すなわち幻惑の界」と呼ばれます。グラマーとは、人々の内に沸き起こる強い感情や欲望、幻想などが織りなす霧のようなものであり、人間をしばしば非合理的な行動や自己中心的な振る舞いへと駆り立てる根源とされます。アストラル界はこのグラマーが充満する場であり、アストラル体がここから影響を受けると考えられます。ただし、神智学的な解釈では、人間以外の動物にはアストラル界は存在しないとされることがあります。

なお、エリファス・レヴィの影響を受けた後世の神秘主義や魔術の伝統においても、「アストラル光」や「アストラル界」といった用語は使用されました。例えば、19世紀末にイギリスで活動した魔術結社「黄金の夜明け団」も、物質界以外の非物質的な次元を指して「アストラル光」という言葉を用いましたが、その概念的な意味合いは神智学のそれとは微妙に異なると指摘される場合もあります。神智学におけるアストラル体およびアストラル界の概念は、複雑な非物質的世界観の一端を示すものと言えるでしょう。

もう一度検索