アストンマーティン・AMR-One

アストンマーティンAMR-One：夭折の天才レーシングカー

2011年、アストンマーティンはル・マン24時間レース制覇を目指し、AMR-Oneを開発しました。ACO（フランス西部自動車クラブ）のレギュレーション変更によりエンジン排気量が大幅に縮小されたことを受け、従来のV12エンジンから2L直列6気筒エンジンへと変更。多くのチームがクローズドボディを採用する中、AMR-Oneは空力的に不利ながらも、コストパフォーマンスとドライバー交代の容易さを優先し、オープンボディを採用するという大胆な選択をしました。

開発とデザイン

AMR-Oneはプロドライブが独自に製作。当初は2年間で6台の製造を計画していました。その特徴的なデザインは、フロント部に空気を効率的に取り込むための大きなダクトを備え、F1マシンを思わせるハイノーズ形状が印象的です。このダクトを通って取り込まれた空気は、ブレーキやギアボックスの冷却、エンジンへの吸気、そしてダウンフォースの発生に利用されました。ボディサイドは、アウディやプジョーのような中央部で絞り込まれた形状とは異なり、フロントからリアタイヤにかけてほぼ一直線に伸びるシンプルなラインが特徴です。

期待と挫折

2011年4月、ル・マン・シリーズ開幕戦のポール・リカールでAMR-Oneは実戦デビューを果たしました。しかし、デビュー戦ではエンジントラブルに見舞われ、十分なテスト走行を行うことができませんでした。続くル・マン公式テストでもエンジントラブルが頻発し、十分な走行テストができなかった状態でのル・マン24時間レースに臨むこととなります。予選ではトップから大きく遅れ、グリッドでもLMP2クラスの車両に埋もれる結果に終わりました。決勝レースでは、007号車と009号車の両車が1周目からトラブルに見舞われ、早々にレースから脱落、完走することは叶いませんでした。一方、同チームのローラ・アストンマーティンB09/60は7位で完走を果たしました。

プロジェクトの終了

ル・マン24時間レースでの惨敗を受け、アストンマーティンはAMR-Oneプロジェクトを終了することを決定しました。わずか数レースの出場で、ポイントを獲得することなく、表舞台から姿を消したのです。2012年1月、アストンマーティン・レーシングはプロトタイプカープロジェクトの終了と、GTカテゴリーへのリソース集中を発表しました。AMR-Oneプロジェクトはここで完全に幕を閉じました。しかし、その革新的なデザインと開発技術は、後に登場するペスカロロ・03やデルタウイングといった車両の開発に影響を与えたと言われています。AMR-Oneは、その潜在能力を十分に発揮することなく消えた、いわば夭折の天才レーシングカーと言えるでしょう。その短い歴史は、モータースポーツにおける開発の難しさ、そして技術革新のスピードを改めて認識させる出来事でした。2011年7月にはグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードに参加し、007号車がコースを完走したことが記録に残されています。このイベントでの走行は、AMR-Oneの開発陣にとって、そしてモータースポーツファンにとって、一抹の慰めとなったのかもしれません。

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