アスパリス

アスパリス

アスパリスは、古代ギリシアのテッサリアー地方、プティーアーにあるメリテーという都市に縁のある女性です。彼女は貴族であるアルガイオスの娘として生まれ、アステュギテースという兄がいました。

メリテーを支配した暴君

かつてメリテーの町は、周辺の国々から「タルタロス」というあだ名で恐れられるほど、傲慢で残虐な王によって支配されていた時代がありました。この王は、その暴虐さゆえに、臣下にアスパリスを自らの宮殿へ連れてくるよう命じました。

アスパリスの悲劇的な選択

王からの召集命令がアスパリス自身の耳にも届いたとき、彼女は王の使者が到着する前に、自ら命を絶つ道を選びました。この悲劇的な出来事は、彼女が不本意な運命に抗った結果でした。

兄アステュギテースの復讐

妹アスパリスの死がまだ町の人々に広く知られていない間に、兄のアステュギテースは王への復讐を心に誓います。彼は妹の衣服を身にまとい、剣を隠し持って王宮へと向かいました。まだ少年であったため、王宮の警備の目を巧みにすり抜け、警戒していない王のもとへたどり着き、見事、王を討ち取りました。

町の解放と新たな始まり

メリテーの人々は、長年の圧政を敷いていた王の死を知ると、抑圧から解放された喜びを爆発させました。彼らはアステュギテースを英雄として称え、太陽神アポローンへの感謝を込めた讃歌を歌いながら町を行進しました。討たれたタルタロス王の遺体は川に投げ込まれ、その後、その川は王の名をとってタルタロス川と呼ばれるようになったと伝えられています。

神によって守られたアスパリスの魂

一方、人々がアスパリスの遺体を弔おうと探したとき、彼女の身体は神の力によってこの世から姿を消しており、見つけることができませんでした。しかし、その代わりに、神はアスパリスの姿を象った木像を、町にあるアルテミス女神の神像の隣に現れさせました。これは、純粋な魂を持つアスパリスが神によって特別な計らいを受けたことを示しています。

木像への特別な崇拝

メリテーの住民たちは、この現れた木像を特別な存在として敬いました。彼らはこの像を「遠きところより業をなす女神アスパリス・アメイレーテー・ヘカエルゲー」という長く尊い名で呼び、崇拝しました。また、アスパリスが処女のまま生涯を終えたことに敬意を表し、毎年、一度も交尾したことのない若い雌の山羊を木像に吊るして供えるという、独特の儀式を行ったと伝えられています。この儀式は、彼女の純粋さと悲劇的な死に対する追悼、そして神聖な存在となった彼女への畏敬の念を示していたのでしょう。

伝承の源

こうしたアスパリスにまつわる物語は、古代ギリシアの詩人コロポーンのニーカンドロスの著作『変身物語』を基に、後にアントーニーヌス・リーベラーリスが編纂した『ギリシア変身物語集』に記されており、後世に伝えられています。彼女の物語は、暴虐への抵抗と、純粋な魂が神によって特別な形で報われるというテーマを描いています。

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