アゾフスタリ製鉄所

アゾフスタリ製鉄所の概要

アゾフスタリ製鉄所は、ウクライナ南東部のマリウポリに位置する、同国最大級の製鉄・圧延会社です。アゾフ海に面し、カルミウス川の河口に位置するという立地から、水運による資源調達や製品輸送に優れていました。ソ連時代に建設されたこの製鉄所は、地下に核攻撃を想定した巨大な要塞を備えており、2022年のロシアによるウクライナ侵攻では、その堅牢性が注目を集めることとなりました。

歴史

1930年にソ連の決定により設立されたアゾフスタリ製鉄所は、1933年に操業を開始しました。1935年には、ソ連で最初の250トン傾斜平炉の試運転に成功し、製鋼生産を開始しました。第二次世界大戦中には、ナチスドイツによる占領を経て、ドイツ国防軍向けの兵器製造にも関与しましたが、1943年に再建されました。2005年には、590万トンを超える鉄鋼を生産するなど、21世紀においても重要な役割を担っていました。

環境問題と住民の抗議

アゾフスタリ製鉄所は、その操業がもたらす環境汚染も深刻でした。アメリカの雑誌『ナショナルジオグラフィック』によれば、マリウポリはウクライナで「最も汚染された都市の一つ」とされています。その背景には、緩慢な環境規制と老朽化した設備の使用があり、住民からは改善を求める声が上がっていました。大気汚染の深刻さを示すデータや、土壌から検出された重金属の存在は、環境への影響の大きさを物語っています。

2022年ロシアのウクライナ侵攻

2022年2月24日、ロシアの軍事侵攻を受け、アゾフスタリ製鉄所は操業を停止しました。350トンもの溶融金属を扱う高炉の停止には7日間を要し、その間にはロシアの破壊工作員が侵入する事件も発生しました。3月には、マリウポリがロシア軍に包囲され、工場は大きな損傷を受けました。4月には、アゾフスタリ製鉄所はウクライナ軍の最後の抵抗拠点となり、包囲された状況下で激しい戦闘が繰り広げられました。ウクライナ軍は降伏を拒否し、製鉄所の地下に設けられたシェルターに立て籠もりました。ロシア軍の度重なる降伏勧告を拒否し、食糧や弾薬が不足する状況下でも徹底抗戦を続けました。市民も地下シェルターに避難し、極限状態での生活を余儀なくされました。国連と赤十字国際委員会の仲介により、民間人の避難が実現しましたが、製鉄所に残った兵士たちは、5月16日に降伏しました。

製鉄所の現在と今後

ロシア軍は、占領したアゾフスタリ製鉄所を修理・整備拠点として使用していましたが、2023年5月には、ウクライナ軍による攻撃を受けたとロシア側は主張しています。その後、捕虜交換が行われ、製鉄所で捕まった兵士を含む人々がウクライナへ帰国しました。

製鉄所の設備と構造

アゾフスタリ製鉄所には、コークス製造設備、焼結プラント、6基の高炉、製鋼施設が含まれています。ソ連時代に建設された地下シェルターは、核攻撃を想定した6階建てのトンネル構造で、最大4000人を収容できる水や食料を備蓄していました。これらのシェルターは、平時には倉庫として使用されていましたが、2014年の紛争以降、避難場所としての整備が進められていました。巨大な地下空間は、検査・診療所、園芸場、カフェ、居住空間などを備え、都市機能の一部を担っていました。

まとめ

アゾフスタリ製鉄所は、ウクライナの工業史における重要な存在であり、その歴史は紛争と環境問題に翻弄され続けてきました。2022年のロシア侵攻では、その堅牢な構造が注目を集め、ウクライナ軍の抵抗の象徴となりました。現在、製鉄所は事実上機能停止していますが、その歴史と構造は、今後の復興や再建に向けて、重要な教訓と示唆を与えてくれるでしょう。

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