アダムとイヴ (クラナッハ、ウィーン)

[ルーカス・クラナッハ]の『アダムとイヴ』は、旧約聖書の創世記に描かれる人類の原罪をテーマにした絵画作品です。この作品は、ルネサンス期のドイツで制作され、現在はウィーンの美術史美術館に所蔵されています。クラナッハとその工房は、「アダムとイヴ」を題材にした作品を数多く制作しましたが、この作品は、その中でも特に重要な位置を占めています。

クラナッハの「アダムとイヴ」の作品群は、通常、等身大のアダムとイヴをそれぞれ別の板に描く構成が多いです。しかし、この作品のように、一枚の小さな矩形の画面に二人が共に描かれているものもあります。いずれにしても、クラナッハの描く「アダムとイヴ」は、エデンの園での禁断の果実を食べる「堕罪」の瞬間を描写しています。創世記によれば、アダムとイヴはエデンの園で平和に暮らしていましたが、蛇にそそのかされたイヴが禁断の果実を食べてしまい、その果実をアダムにも与えてしまいます。この行いによって、二人は原罪を犯し、神の怒りを買い、エデンの園を追放されることになります。

この作品に描かれているモチーフ、例えば地面に横たわるシカや、踊るように見えるイヴの姿勢は、クラナッハの他の作品にも見られます。これらのモチーフは、工房での制作を円滑にするためのものでした。しかし、クラナッハは単に同じイメージを繰り返すだけでなく、人物の姿勢や身振り、その他の要素において多様なバリエーションを持たせています。工房の弟子たちは、クラナッハのレパートリーを基に、独自の解釈を加えて様々な作品を生み出しました。そのため、どの作品がクラナッハ自身の作で、どの作品が工房の弟子の作であるかを見分けることは非常に困難です。

クラナッハの「アダムとイヴ」は、その表現の豊かさから、ルネサンス美術における重要な作品の一つとして位置づけられています。この作品は、単に聖書の物語を描写するだけでなく、人間の原罪や、その後の運命について深く考えさせる力を秘めています。クラナッハの工房の活動によって数多く制作されたこれらの作品は、当時の美術制作のあり方を理解する上で貴重な資料ともなっています。

この作品は1537年以降に制作されたと考えられています。その理由は、画面下部にクラナッハが署名代わりに用いた翼のある蛇の紋章が記されており、クラナッハが1537年以降にこの紋章を用いるようになったためです。

参考文献

• - 『クラーナハ展500年後の誘惑』、国立西洋美術館、ウィーン美術史美術館、TBS、朝日新聞社、2016年刊行　ISBN 978-4-906908-18-9
• - 千足伸行監修『週刊世界の美術館 No.60 ウフィツィ美術館III』、講談社、2001年4月刊行 全国書誌番号:20135446
• - 大島力『名画で読み解く「聖書」』、世界文化社、2013年刊行　ISBN 978-4-418-13223-2

外部リンク

• - 美術史美術館公式サイト、ルーカス・クラナッハ『堕罪』 (ドイツ語)

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