アッコ包囲戦 (1189年-1191年)

アッコ包囲戦：十字軍とサラディンの激突

アッコ包囲戦（1189年 - 1191年）は、十字軍とアイユーブ朝の間で行われた、第三回十字軍における重要な戦いです。この戦いは、サラディンによる十字軍国家の早期壊滅を阻止し、後の歴史に大きな影響を与えました。

背景

戦いの舞台となったアッコは、ハイファ半島の湾内に位置する重要な港湾都市でした。東側は海に開け、西側と南側は強固な城壁で守られていました。また、半島自体も二重の防壁と防御塔で守られており、サラディン軍にとっては兵站基地および戦術的な要所でした。当時、ハッティンの戦いで大敗を喫したエルサレム王国のギー・ド・リュジニャンは、残存兵力を率いてこの地に滞在していました。彼は、ヨーロッパからの十字軍の援軍を待ちながら、勢力の回復を図っていました。

ギーはアッコの城壁に攻撃を仕掛けましたが失敗。その後、ヨーロッパから到着し始めた十字軍の援軍を待つ戦略に切り替えました。デーン人やフリジア人の艦隊を皮切りに、フランス、フランドル、ドイツ、イタリアなど各国の軍勢が続々と集結。モンフェラート侯コンラート1世やキリキア王レヴォン2世も参戦し、十字軍は勢力を拡大していきました。サラディンはこれに対抗するため軍を集結させ、1189年9月10日にギーの野営地を襲撃しましたが、これも失敗に終わりました。

アッコの戦い

10月4日、サラディン軍はアッコ東側に移動し、十字軍と対峙しました。十字軍は歩兵30,000、騎馬隊2,000にまで膨れ上がり、海からは少なくとも102隻の艦隊がアッコを包囲していました。一方、イスラム軍はエジプト、トルキスタン、メソポタミアなど各地からの軍勢で構成されていました。戦いは、イスラム軍左翼部隊とテンプル騎士団が独断で戦闘を開始したことで始まりました。十字軍の攻撃は成功し、イスラム軍は敗走しましたが、十字軍も兵力を分散させて追撃したため、サラディンは軽装騎兵を用いて反撃。十字軍に大きな損害を与えました。さらに、アッコの守備隊も十字軍の野営地を襲撃し、テンプル騎士団総長ジェラール・ド・リドフォールらが戦死するなど、十字軍は大きな損害を受けました。

二重包囲戦

秋にはさらに多くの十字軍がアッコに集結し、アッコは海上だけでなく陸上からも包囲されることになりました。フリードリヒ1世の来訪は十字軍の士気を高めましたが、サラディンも増援を集め、十字軍の野営地を包囲しようとしました。10月3日、ムスリムのガレー船がアッコに到着し、守備隊に増援と物資を補給。12月7日にはエジプト艦隊がアッコの港と街道を封鎖しました。しかし、コンラートによる補給で十字軍は持ち直し、攻城兵器を製造してアッコを攻撃しましたが、これは失敗に終わりました。

1190年5月20日、サラディンは十字軍の野営地を襲撃しましたが撃退され、その後も十字軍は援軍を受け入れ勢力を拡大しました。しかし、包囲が長期化するにつれて、食糧供給は滞り、伝染病が蔓延し始めました。多くの指揮官が病死し、エルサレム王位を巡る内紛も勃発。ギーは王位を主張し続けましたが、貴族たちはコンラートとイザベルの結婚を進めようとしました。教会法上の問題が指摘されましたが、教皇特使の承認によりイザベルはオンフロワ4世と離婚し、コンラートとの結婚が認められました。

サラディンは周辺地域を抑え、十字軍は陸路での補給が困難になりました。冬が近づき、海路での補給も難しくなり始め、1190年から1191年の冬にはアッコに駐在するムスリム守備兵は20,000人に増加しました。十字軍の野営地では、伝染病で多くの指揮官が命を落としました。1191年2月20日にはブロワ伯ティボー5世とシュヴァーベン大公ルートヴィヒ6世が病死。3月には十字軍は物資を荷揚げすることに成功し、レオポルト5世が着陣。十字軍の指揮を執ることになりました。サラディンは、イングランド王リチャード1世とフランス王フィリップ2世がエルサレム奪還を目指して進軍していることを知り、十字軍を完全に殲滅する機会を逃したことを悟りました。

アッコ包囲戦は、十字軍とイスラム勢力の激しい攻防が繰り広げられた戦いでした。この戦いは、第三回十字軍の行方を左右する重要なターニングポイントとなり、最終的に十字軍側の勝利によって幕を閉じました。しかし、長期間にわたる包囲戦は両陣営に甚大な被害をもたらし、その後の歴史にも大きな影響を与えることとなりました。

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