アッティカ刑務所暴動

アッティカ刑務所暴動は、1971年9月9日にアメリカ合衆国ニューヨーク州のアッティカ刑務所で発生した、受刑者による大規模な抵抗運動です。この暴動は、劣悪な収容環境の改善を求める受刑者たちの切実な訴えの一部でした。

背景にある深刻な状況

当時のアッティカ刑務所では、非常に抑圧的な管理体制が敷かれていました。食堂や作業場には催涙ガス噴射装置が設置され、受刑者への待遇は極めて粗末でした。具体的には、シャワーは週に一度しか許可されず、トイレットペーパーも週に一巻きしか支給されないという有様でした。

さらに、深刻な人種間の緊張が存在しました。約2200人の受刑者のうち、半数以上にあたる54%がアフリカ系アメリカ人、9%がプエルトリコ人といった非白人系でしたが、383人の刑務所職員（看守）は全員が白人でした。刑務所内部の報告によれば、看守たちは公然と人種差別的な態度を取り、「黒んぼ棒」と呼ばれる警棒で受刑者を日常的に殴打していたとされています。

この暴動に先立つ1ヶ月前の8月21日、カリフォルニア州のサン・クエンティン州立刑務所で、黒人急進派の思想家ジョージ・ジャクソンが脱獄を試みて看守に射殺される事件が発生していました。この出来事への反発が、翌9月9日のアッティカ刑務所での蜂起を誘発した一因と考えられています。

暴動の勃発と人質の発生

1971年9月9日の朝8時20分頃、点呼のために集合した受刑者たちは、先日トラブルを起こした一人の受刑者が独房に戻され、監禁後に拷問を受けるという噂が広まっていることに気づきました。同様の処遇への懸念から、一部の受刑者が抗議し、独房棟へ向かいました。彼らは先に監禁されていた受刑者を解放し、朝食へ向かう他の受刑者たちに合流しました。この直後、異変に気づいた一人の刑務官が調査を開始しようとした際に受刑者に襲われ、これを契機に暴動が開始されました。

約1000人の受刑者が暴動に参加し、刑務所の大部分を制圧しました。彼らは鉄パイプや鎖、野球のバットなどを手に看守らを襲撃し、最終的に42人の刑務所職員や民間人を人質に取りました。受刑者たちは自らの不満や要求を記したリストを公表し、当局との交渉を求めました。

交渉の難航と決裂

当局は事態収拾のため、受刑者側との交渉に乗り出しました。当初は刑務所長のラッセル・オスワルドが対応にあたり、その後、ニューヨーク・タイムズ紙の編集者トム・ウィッカーや弁護士のウィリアム・クンストラーといった著名人を含むオブザーバーを交えて交渉が続けられました。受刑者側は、劣悪な環境の改善、公正な待遇、基本的人権の尊重など、28項目にわたる要求を提示しました。

当局はこれらの要求の多くに同意を示しましたが、暴動そのものに対する完全な恩赦と、刑務所長の解任という二つの主要な要求を最後まで拒否しました。また、当時の州知事ネルソン・ロックフェラーが、現場に赴き受刑者たちと直接対話することを拒否したことも、状況をさらに複雑化させました。知事の不在が事態を悪化させたという見方がある一方で、現場訪問を避けたことでより深刻な事態を防げたという推測も後になされています。

最終的に交渉は決裂。オスワルド所長は受刑者たちに対し、交渉継続は不可能であるため暴動を中止するよう通告しました。その後、知事に連絡を取り、事態沈静化のための来訪を改めて懇願しましたが、ロックフェラー知事はこれも拒否。これを受け、オスワルド所長は州兵による武力での施設奪還を決断し、知事もこれに同意しました。後にロックフェラー知事によって設置された特別委員会は、この武力制圧の決定を批判しています。

武力制圧とその後の悲劇

1971年9月13日月曜日の午前9時46分、州兵は作業場に催涙ガスを投げ込み、その煙幕の中で約2分間にわたる一斉射撃を開始しました。使用された武器にはショットガンも含まれており、これにより抵抗する手段を持たない受刑者や、人質として囚われていた職員が負傷し、命を落としました。この制圧部隊には、刑務所の元看守たちの参加が許可されており、特別委員会はこの決定を「弁解の余地がない」と強く非難しています。

この武力制圧により、刑務所は奪還されましたが、結果として9人の人質と28人の受刑者が犠牲となりました。暴動における最終的な死者数には、暴動発生時に致命傷を負った職員や、受刑者内の「正義」に基づいて処刑されたとされる4人の受刑者も含まれます。人質9人は、州兵と看守による発砲によって命を落としたことが後に明らかになりました。

ニューヨーク州特別委員会の報告書は、この武力制圧を「19世紀末のインディアン虐殺を除けば、南北戦争以降でアメリカ人の間で生じた最も血なまぐさい一日だった」と評しており、その凄惨さを物語っています。

暴動自体は鎮圧されたものの、その後、制圧に関与した軍や看守による受刑者への報復行為が見過ごされました。受刑者たちは裸にされ、泥の中に投げ込まれて這わせられたり、怒り狂った看守たちの列の間を裸で走らされ、殴打されたりしました。暴動終結から数日後にも、さらなる暴行があったとする医学的な証拠が複数の刑務所医師によって報告されています。特別委員会はまた、州当局が人質が去勢されたり喉を切り裂かれたりして殺されたという誤った噂の拡散を許し、その否定に時間がかかりすぎたことも不当であると非難しました。マスコミ報道の一部も、受刑者が人質の喉を切り裂いたと報じましたが、これは公式な医学的証拠と矛盾しており、後に意図的に捏造された報道であったことが判明しています。

事件後の法的措置と和解

暴動発生から4年間で、62人の受刑者が合計1289件の訴因で訴追され、42件の起訴に至りました。一方、州の法執行官では、無謀な危険行為の罪で訴追されたのはわずか1人の州警官のみでした。

受刑者および暴動で犠牲となった受刑者の遺族は、暴動中およびその後の法執行官による人権侵害を訴え、ニューヨーク州を相手取って訴訟を起こしました。この訴訟は長期にわたりましたが、事件から27年後の2000年、ニューヨーク州は受刑者側に対し1200万ドルを支払うことで和解が成立しました。また、2004年秋には、暴動で殺害された刑務所職員の遺族に対しても、別途1200万ドルの和解金が支払われることが決定しました。

当事件を題材とした作品

アッティカ刑務所暴動は、その社会的・歴史的重要性から、様々な芸術作品の題材となっています。

ジョン・レノンの楽曲「アッティカ・ステート」（1972年）
フレデリック・ジェフスキーの音楽作品「アッティカ、カミング・トゥゲザー」（1971年、1972年）
テレビ映画『ウォール・オブ・アッティカ/史上最大の刑務所暴動』（ジョン・フランケンハイマー監督、1994年）
映画『狼たちの午後』（1975年） - 作中に言及されるシーンがある
* アーチー・シェップのアルバム「アッティカ・ブルース」（1972年）

もう一度検索