アップルストア立てこもり事件

アムステルダム・アップルストア立てこもり事件

2022年2月22日（現地時間）、オランダの首都アムステルダムにあるアップルストア「Apple Amsterdam」で発生した人質立てこもり事件は、平和な街に大きな衝撃を与えました。午後5時30分頃、武装した男がライツェ広場に面するこの店舗に侵入し、複数人いる店内にいた人々を人質に取って立てこもったのです。オランダのメディアは、事件が当初、強盗目的で始まった可能性を報じており、犯人はおよそ5時間にわたり店舗内に籠城しました。この出来事は、地元アムステルダム市当局のウェブサイトで「Gijzeling in de Apple Store」（アップルストアの人質事件）と記され、後にはNetflixで映画「iHostage」の題材としても知られることになります。

事件発生当時、店内には多数の顧客や従業員がいましたが、犯人が侵入すると混乱の中、多くの人が店外へ逃れました。およそ10分後の午後5時40分頃には警察に通報が入り、数十人の警察官が現場へ急行しました。最も早く到着したパウ署長率いる警察は、特殊部隊と共に店舗周辺を即座に封鎖しました。犯人は警察に対し、自動小銃を向けるなど威嚇行動を取り、自身が爆発物を身につけていることを示唆する写真も送信しました。これは後に偽物と判明しますが、当初は深刻な脅威として扱われました。広場にいた一般市民は警察の指示で近くのカフェに避難し、報道関係者も距離を置くよう求められました。

警察の発表によると、事件発生後、約70人がアップルストアから解放されましたが、数十人が依然として店内に取り残されていました。これらの多くは、事件発生時に店舗の上階におり、従業員や買い物客で、食堂などに避難していたと考えられています。しかし、そのうち4人は1階のクローゼットに身を隠した一方で、ブルガリア国籍の男性一人が犯人の人質となりました。

人質を取った犯人、アブデル・ラーマン・アカード（当時27歳）は、人質の解放と引き換えに、当時約2億ユーロ（日本円で259億円以上）相当の仮想通貨と、市外への安全な逃走経路を要求しました。警察はこれらの要求に直接応じることはありませんでした。犯人はまた、身につけている爆発物で人質と共に自爆するとも脅迫しており、警察との電話交渉でも緊迫したやり取りが続きました。

事件発生から約5時間が経過した午後10時30分頃、人質であるブルガリア人男性が犯人に水を求めました。犯人が警察に水を要求すると、警察はキャタピラ式の警察用ロボットを使ってボトルを店の入り口まで届けました。人質男性が水を受け取ろうとドアを開けたその瞬間、彼は隙をついて外へ脱出を試みました。犯人はそれを追って店外へ飛び出しましたが、待ち構えていた警察の特殊部隊DSIの装甲車「ベアキャット」に衝突され、道路に倒れ込みました。この衝撃で車両のフロントガラスが割れるほどでした。

路上に倒れた犯人には、付近のビルの屋上に待機していた狙撃手からレーザー照準が当てられ、別の警察用ロボットが近づいて犯人が装着していた爆発物が作動していないことを確認しました。安全が確保された後、犯人は重傷を負った状態で病院へ搬送されましたが、翌日死亡が確認されました。決死の脱出に成功したブルガリア人男性は、警察官に保護され、その勇気を称えられました。クローゼットに隠れていた人々や上階にいた人質も、事件終結後に無事解放されました。

事件後、現場周辺では大規模な捜査が行われ、警察官など関係者への聴取を通じて詳細が明らかになりました。警察は捜査の間、関係者の安全のため、事件に関わる画像や動画の公開を控えるよう呼びかけました。捜査により、犯人には前科があったこと、事件発生直後には店舗入口付近に向けて少なくとも4発発砲していたこと、そして彼が身につけていた爆発物は国防省から盗まれた訓練用の偽物であったことなどが判明しました。偽物とはいえ、本物のように見せかける細工がされていたため、犯人は非常に危険な人物と見なされていました。

犯人が事件中に装着していたボディカメラの映像は、後にオランダのドキュメンタリー映画「De Gijzeling in de Apple Store」（英語版タイトル:「The Hostage Situation at the Apple Store」）で公開されました。このドキュメンタリーは実際の事件映像に加え、犯人自身の視点からの映像も含まれています。また、この事件はボビー・ブルーマンス監督により映画「iHostage」としても描かれました。犯罪映画として制作されたこの作品は、事件発生から終結までの緊迫した数時間を、犯人、人質、警察それぞれの視点から多角的に描き出しています。Netflixで配信され、世界92カ国でトップ10入りするなど大きな反響を呼びました。映画では一部脚色があるものの、実際の事件現場に近い場所でロケが行われ、アップルストア内部は精巧なセットで再現されました。

この事件に関わった警察官や人質、そして迅速な対応を取った当局に対し、多くの称賛の声が寄せられました。アムステルダム市は、人質男性やクローゼットに隠れて難を逃れた4人に「Amsterdam Hero Pin」というバッジを授与し、その勇気を称えました。警察署長や法務大臣は、事件対応に当たった警察のプロフェッショナリズムを称賛する一方、アムステルダム副市長は事件そのものへの失望を表明しました。犯人が警察との衝突後に死亡したことについては、人種差別的な批判などは見られませんでした。

アムステルダム・アップルストア立てこもり事件は、強盗未遂から予測不能な人質事件へと発展し、多くの人々を巻き込みましたが、警察の連携と人質の勇気ある行動により、最悪の事態が回避された事例として記憶されています。この事件は、現代社会における突発的な犯罪のリスクと、それに対処するプロフェッショナリズムの重要性を浮き彫りにしました。

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