アップルトンのアメリカ人名事典

アップルトンのアメリカ人名事典

アップルトンのアメリカ人名事典（Appletons' Cyclopædia of American Biography）は、アメリカ大陸の歴史において重要な人物に関する伝記を集めた作品です。この事典は1887年から1889年にかけて全6巻にわたり刊行され、多くの読者に広く受け入れられてきました。執筆者の名前は記載されていないものの、数十年にわたってその権威性が認められていましたが、実在しない人物の記事が多く含まれていることでも知られています。

概要

この事典には、アメリカ合衆国の市民や北米・南米における他国の市民の記事が2万人以上収録されています。特に、アメリカの歴史に密接にかかわる約1000人の外国出生者も含まれています。事典の目指したのは新世界において注目すべき人物を網羅的に紹介することです。また、約60枚のフルページの肖像画や約1500点の小さなビネット肖像画も収められており、歴史的なモニュメントや人物の住居、墓地なども多く取り上げられています。

しかし、この事典には執筆者の個別の名前やイニシャルは明示されておらず、寄稿者の一覧を頼りにする必要があります。このため、特定の人物に関する記事の執筆者を見つけることは容易ではないとの指摘もあり、一部の査読者からは不便さが指摘されていました。

架空記事の問題

現在、この事典は200人以上の架空の人物の記事を含むことでも注目されています。1919年、植物学者ジョン・バーンハートが最初にこれらの架空の記事を発見し、後にラテンアメリカに関連する研究を行う際に見識を深める契機となりました。以降、1939年までの研究において47件の虚構記事が特定されました。特に大学の評価においてマーガレット・キャッスル・シンドラーが行った調査が有名で、彼女は執筆者が科学に関する訓練を受けていることを示唆しました。彼女によれば、創作された人物の多くは科学に詳しく、彼らが訪れた地名や歴史的事件も実際のものが多く含まれている一方で、間違いも散見されることが明らかになりました。

寄稿者と検証

事典の寄稿者は新しい項目を提案することができ、記事の長さに応じた報酬が支払われていましたが、記事の内容の検証は不十分だったとの批判も出されています。たとえ一部の記事が権威として扱われたとしても、ラテンアメリカに関する情報は他の出典と照合しなければならないという注意喚起がされています。専門家たちは、これが事典の信頼性を損なう要因となっていると指摘しています。

先行する作品との関係

アップルトンの事典は、1872年に発行されたフランシス・サミュエル・ドレイクのDictionary of American Biographyにも依拠しています。このドレイクによる事典には10,000の伝記が収録されており、元の素材や新たに集めた資料がアップルトンの事典に活用されました。

出版と再版

初版は1887年から1889年にかけてニューヨークのD. Appleton & Companyから発行されました。編集者としてジェームズ・グラント・ウィルソンやジョン・フィスクが関与し、後に刊行された付録や主題索引は1901年に公開されました。1968年にはゲイル・リサーチ・カンパニーによって再版されましたが、虚構の記事に関しては修正が行われていません。

この事典は、アメリカの歴史と文化を理解する上で重要な資料の一つである一方で、その内容の真実性について考慮すべき点も多く含んでいます。

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