虚構記事

虚構記事とは

虚構記事（きょこうきじ、独: Nihilartikel）とは、辞書や百科事典などの出版物に、意図的に混入された架空の記事や項目のことです。これらの記事は、実際には存在しない事物や人物について、あたかも実在するかのように記述されています。

虚構記事の定義

虚構記事は、単に「虚構について書かれた記事」ではありません。例えば、架空の探偵エルキュール・ポアロについての記述は、その人物が架空であることを明示しているため、虚構記事とは見なされません。虚構記事とは、「記事そのものが虚構」である場合に限定されます。つまり、読者を欺き、架空の情報を事実と誤認させることを目的とした記事を指します。

虚構記事の名称

虚構記事は、ドイツ語で「Nihilartikel」（ニヒルアルティーケル）と呼ばれます。「nihil」はラテン語で「虚無」、「Artikel」はドイツ語で「記事」を意味します。この言葉は英語でもそのまま借用され、「Nihilartikel」として使われることが多いです。

また、英語では「Mountweazel」（マウントウィーゼル）という用語も使われます。これは、1975年版の『新コロンビア[[百科事典]]』に掲載された架空の人物記事「リリアン・ヴァージニア・マウントウィーゼル」に由来します。

虚構記事の発見

虚構記事は、一般的に外部からの参照が存在しないため、偶然ページをめくっていて発見されることが多いです。しかし、読者の目を引きやすくするために、他の事実に関する項目と深く関連付けられている場合もあります。虚構記事は、パロディの形式をとる場合や、現実の項目を模倣して巧妙に偽装されている場合など、様々なパターンがあります。また、複数の事典に同一の虚構記事が掲載されていると、読者はそれを事実として受け入れやすくなる傾向があります。

虚構記事の意図と実用性

虚構記事は、単なるいたずら心から作られるだけでなく、著作権侵害の発見を目的とする場合もあります。

著作権保護

図鑑や地図などの著作物では、本文中に意図的に誤った情報を混入させることで、盗用者を特定しやすくする手法が用いられます。例えば、地図に実在しない通り（トラップストリート）を記載したり、電話帳に架空の人物と電話番号を掲載するなどの例があります。これにより、著作物の無断転載を容易に立証することが可能になります。

メディアリテラシーの向上

虚構記事は、読者に批判的思考を促すためのメタコミュニケーションの一形態とも捉えられます。虚構の情報に接した読者は、メディアが発信する情報の真偽を検証する重要性に気づき、メディアリテラシーの向上に繋がることが期待できます。これは、ウンベルト・エーコの言う「文化ゲリラ」の考え方にも通じます。

虚構記事の例

公的情報源

ヤーコプ・マリア・ミーアシャイト: ドイツ連邦議会の議員名簿に掲載された架空の議員。

辞書・事典類

『アップルトンのアメリカ[[人名事典]]』: 200以上の架空の人物記事が含まれていた。
ズズクスジョアンウ: 『音楽愛好者のための事典』に掲載されたマオリ語の架空の太鼓の名称。
リリアン・ヴァージニア・マウントウィーゼル: 『新コロンビア[[百科事典]]』に掲載された架空の噴水デザイナー兼写真家。
『ニューグローヴ音楽大事典』: グリエルモ・バルディーニとダグ・ヘンリーク・エスロム＝ヘレロプという架空の作曲家の記事が含まれていた。
アポプドバリア: 『新パウリー古代百科事典』に掲載された古代ローマの架空のスポーツ。
石ジラミ: 『シレンベル臨床辞典』に掲載された架空の生物。1日あたり28キログラムの石を食い荒らす。
エスキヴァリエンス: 『新オックスフォード米語辞典』に掲載された架空の単語。「意図的に自分自身の公的責任を逃れること」という意味。
酢豆腐: かつて日本の国語辞典に誤った解説が掲載されていた。
『いちばんくわしい日本妖怪図鑑』: 伝承として確認できない妖怪が複数掲載されている。

地図

アグロー: 米国ニューヨーク州に実在するとされた架空の地名。地図会社が著作権トラップとして記載したが、後に現実の地名として使われるようになった。
ゴブルとビートス: 米国ミシガン州の道路地図に掲載されたオハイオ州の架空の地名。
アーグルトン: Google マップに現れたイギリスの架空の集落。

トリビア本等

『金の七面鳥賞』: 実在しない映画が含まれている。
『トリヴィア百科事典』: クイズに対して故意に誤った回答が混ぜてある。
『世界の駄っ作機』: 連載初期に一度、架空の航空機を当てるクイズ企画が行われた。
snoopes.com: 都市伝説出典ページ内に、でっち上げられた伝説に関する誤った議論が収録されている。

雑誌

攻略記事: ゲーム雑誌『ゲーメスト』の記事内に、意図的に虚偽の記述が含まれていた。
ウソ技: ゲーム雑誌『ファミリーコンピュータMagazine』の裏技コーナーに、実際には存在しない裏技が含まれていた。
機動戦士Oガンダム: アニメ雑誌『月刊OUT』に掲載された架空のアニメ紹介記事。
リュウトカゲ: 科学雑誌『アニマ』に掲載された架空のトカゲ類の記事。

料理

スウェーデン風レモンエンジェル: 実際には作ることのできないクッキーのレシピ。

エイプリルフール

サンセリフ: 英紙『ガーディアン』に掲載された架空の島国の記事。
『ディスカヴァー』誌: 4月号に掲載された、ボウリング大の素粒子「ビゴン」の発見や新種の生物「アタマワキハダカコオリクイ」に関する架空の記事。
XNI-02: ハンガリーの航空雑誌に掲載された、第二次世界大戦中に試作されたとされるハンガリー製ジェット戦闘機。

その他

『驚異の動物たち』: 1つだけ実在しない動物が含まれている。
笑っていいとも板: 『2ちゃんねる公式ガイド2002』に掲載された架空の匿名掲示板。
『虚構新聞』: ネットニュースを模した形式で、虚構の記事を掲載するウェブサイト。

関連する種類の書籍

文学作品

ホルヘ・ルイス・ボルヘスの短編小説「トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」
スタニスワフ・レムの「完全な真空」や「挑発」などの架空の書評集
ミロラド・パヴィチの『ハザール事典』
筒井康隆の『乱調文学大辞典』
宮下あきらの漫画『魁!!男塾』
橋本治の『噓つき映画館 シネマほらセット』
アンブローズ・ビアスの『悪魔の辞典』やギュスターヴ・フローベールの『紋切型辞典』

ニセ報告書

『アイアンマウンテン報告 平和の実現可能性とその望ましさに関する調査』

ニセ学術論文

『鼻行類』、「再昇華チオチモリンの吸時特性」、『再現不能結果ジャーナル』、『不可能研究年報』

その他

「dord」: 『ウェブスター新国際英語辞典』に掲載された架空の単語。

まとめ

虚構記事は、辞書や事典などの出版物に意図的に混入された架空の記事のことです。これらは単なるいたずらだけでなく、著作権保護やメディアリテラシーの向上にも役立っています。虚構記事の存在は、情報を受け取る際に常に批判的な視点を持つことの重要性を示唆しています。

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