アトミックコミット

アトミックコミットとは

アトミックコミットは、計算機科学の分野において、一連の変更を単一の操作として実行する処理のことです。この処理は、すべての変更が適用されるか、全く適用されないかのどちらかであり、中途半端な状態になることはありません。もし処理中に障害が発生した場合、変更はすべて元に戻され、システムは常に一貫した状態を保ちます。

この不可分な性質に加えて、アトミックコミットには独立性という重要な特性があります。これは、一度に一つのアトミックコミットのみが処理されることを保証するものです。

アトミックコミットの主な利用分野

アトミックコミットは、主にデータベースシステムとバージョン管理システムで利用されています。

データベースシステム: データの整合性を保ち、複数の更新操作をまとめて行う際に不可欠です。例えば、銀行口座間の送金処理など、複数のステップで行われる操作において、アトミックコミットはデータが不整合な状態になるのを防ぎます。
バージョン管理システム: ソースコードの変更を記録し、リポジトリの一貫性を保つために使用されます。開発者が複数のファイルを変更した場合、アトミックコミットにより、変更がすべて適用されるか、全く適用されないかのどちらかになります。

アトミックコミットの課題

アトミックコミットの実現には、複数のシステム間での調整が必要となるという課題があります。コンピュータネットワークは信頼性が低く、二人の将軍問題が示すように、すべてのシステムと完全に調整できるアルゴリズムは存在しません。特に、データベースが分散化されるにつれて、真のアトミックコミットはますます難しくなっています。

具体例

例えば、口座Xから口座Yへ10,000円を送金する操作を考えてみましょう。この処理は、口座Xからの引き落としと口座Yへの入金の2つのステップからなります。もし、これらの操作がアトミックコミットとして扱われない場合、次のような問題が発生する可能性があります。

口座Xから引き落とした後、口座Yへ入金する前にシステム障害が発生した場合、10,000円が消えてしまう可能性があります。
口座Yへの入金前に残高を確認した場合、正しい残高が反映されない可能性があります。

アトミックコミットは、これらの問題を回避します。システム障害が発生した場合は、トランザクション全体がロールバックされ、口座Xの残高は元に戻ります。また、残高照会はトランザクションが完了するまで待機するため、常に正しい残高が参照されます。

データベースシステムにおけるアトミックコミット

データベースシステムにおいて、アトミックコミットはACID特性の不可分性と一貫性を満たすために不可欠です。しかし、現代のハードウェア設計では、データベースが存在する物理ディスク上で真のアトミックコミットを実現することは困難です。

ディスクへの書き込みは、ディスクセクタと呼ばれる最小単位で行われます。データベースエントリは複数のセクタにまたがる場合があり、一度に書き込めるのは一つのセクタのみです。この制限により、メモリ内で変更されたデータベースエントリをディスクに書き込む際に、部分的な書き込みが発生する可能性があります。この問題は二人の将軍問題に遭遇し、完全に解決することができません。

2相コミットプロトコル

2相コミットプロトコルは、アトミックコミットに関連する問題を部分的に解決するための手法です。このプロトコルでは、調整者が必要な情報を保持し、2つのフェーズで処理を行います。

1. 投票フェーズ: 各ノードは、コミットの変更をディスクに書き込み、その状態を調整者に報告します。調整者は、すべてのノードから報告を受け取ると、次のフェーズに進みます。
2. コミットフェーズ: 調整者は、各ノードにコミットメッセージを送信し、変更を確定します。いずれかのノードがコミットに失敗した場合、調整者はロールバックメッセージを送信し、変更を元に戻します。

3相コミットプロトコル

3相コミットプロトコルは、2相コミットプロトコルの問題点を改善するために開発されました。2相コミットでは、コミットフェーズ中に調整者とノードの両方が同時に失敗した場合、どちらのアクションを実行すべきか判断できません。3相コミットでは、コミット準備フェーズを導入することで、この問題を解決します。

1. 投票フェーズ: 各ノードは、コミットの準備ができているかどうかを調整者に報告します。
2. コミット準備フェーズ: 調整者は、各ノードに準備メッセージを送信し、準備ができたノードからの応答を待ちます。
3. コミットフェーズ: 調整者は、すべてのノードから応答を受け取ると、コミットメッセージを送信し、変更を確定します。いずれかのノードが失敗した場合、ロールバックが行われます。

バージョン管理システムにおけるアトミックコミット

バージョン管理システムでは、アトミックコミットはリポジトリの一貫性を保つために重要な機能です。多くのバージョン管理ソフトウェアでは、コミットに失敗した場合、変更の一部のみが適用されることはありません。これにより、部分的に適用された変更によってプロジェクトが壊れてしまうリスクを回避できます。

モノレポにおけるアトミックコミット

アトミックコミットは、モノレポと呼ばれる開発戦略で、複数のプロジェクト間で同時に変更を行う際にも重要な役割を果たします。モノレポとは、複数のプロジェクトを単一のリポジトリで管理する手法です。

コミット運用手法としてのアトミックコミット

バージョン管理システムを利用する際には、小さな単位でコミットすることが推奨されます。これは、変更の影響範囲を限定し、理解しやすく、変更のロールバックやバグの特定を容易にするためです。

小さなコミットの利点

理解のしやすさ: 変更内容が小さく、変更理由が明確になるため、レビューやデバッグが容易になります。
ロールバックの容易さ: 変更をロールバックする際に、影響範囲を限定できるため、他の変更に影響を与えずに元に戻すことができます。
バグの特定: エラーが発生した場合、変更が少ないため、エラーの原因を特定しやすくなります。

アトミックコミットの具体例

例えば、ソースコードの書式変更と機能変更を同時に行うことは避けるべきです。もし、両方の変更を同時にコミットした場合、レビュー担当者は機能変更箇所を特定することが難しくなります。アトミックコミットでは、書式変更と機能変更は別々のコミットとして行うことで、変更内容を明確にすることができます。

アトミックコミットは、単に技術的な概念に留まらず、開発プロセス全体を効率化し、ソフトウェアの品質を向上させるための重要なプラクティスであると言えます。

関連項目

2相コミット
3相コミット
コミット (データ管理))
* 不可分操作

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