アドルフ・ダニエル・エドワード・エルマー

アドルフ・ダニエル・エドワード・エルマーの生涯と業績

アドルフ・ダニエル・エドワード・エルマー（Adolph Daniel Edward Elmer, 1870年6月14日 - 1942年）は、アメリカ合衆国出身の著名な植物学者であり、熱心な植物収集家でした。彼の研究は、特にフィリピンの植物相の解明に大きく貢献しました。エルマーは、ウィスコンシン州ヴァン・ダインで生まれ、ワシントン州立大学を卒業後、スタンフォード大学で修士号を取得しました。その間、アメリカ西部、特にカリフォルニア州で精力的に植物を収集し、それらの新種記載にも着手しました。

1904年、エルマーは当時アメリカの支配下にあったフィリピンのマニラに渡り、そこで生涯を過ごしました。1904年から1927年の間、彼はフィリピン各地、そしてボルネオ島でも大規模な植物採集活動を行い、膨大な標本を収集しました。植物学者エルマー・ドリュー・メリルは、エルマーを「第二次世界大戦までフィリピンや東南アジアで活動した植物収集家の中で最も優れた人物」と評しています。

エルマーは、1906年から1939年にかけて刊行された雑誌「Leaflets of Philippine Botany」の編集者も務め、この雑誌を通じて1500を超える植物分類群を記載しました。彼の研究成果は、フィリピンの植物学研究において非常に重要な役割を果たしています。

悲劇的な最期

エルマーは妻のエマ・オスターマン・エルマーと共に長年フィリピンで暮らしていましたが、帰国準備中に真珠湾攻撃が起こり、帰国は叶いませんでした。その後、日本軍がフィリピンに侵攻し、エルマーはマニラのサント・トーマス収容所に収容され、1942年4月17日（あるいは7月という説もある）に自然死で亡くなりました。

フィリピン国立植物標本館には、彼の模式標本が所蔵されていましたが、日本軍の侵攻により失われました。妻のエマは収容所から生還しましたが、夫の死を深く悲しみました。

エルマーの遺産

エルマーが収集した植物標本は、多くの新種記載の基礎となり、植物学研究に多大な貢献をしました。以下はその例です。

Castilleja elmeri Fernald（ハマウツボ科）：アメリカ合衆国ワシントン州でエルマーが採取した標本に基づき記載されました。
Zeuxine elmeri (Ames) Ames（ラン科キヌラン属）：当初は別の学名で記載されましたが、後に再分類されました。
Begonia elmeri Merr.（シュウカイドウ科シュウカイドウ属）：エルマーが記載したものの、同名異種であったため、後にメリルによって学名が修正されました。
Cynometra elmeri Merr.（マメ科ナムナム属）：エルマーの標本に基づき記載された種です。

これらの例からもわかるように、エルマーの研究成果は、今日まで植物分類学の基礎として受け継がれています。

アドルフ・ダニエル・エドワード・エルマーは、その生涯を植物の研究と収集に捧げ、フィリピンの植物相の解明に大きな足跡を残しました。彼の悲劇的な最期は、戦争の無情さを物語っていますが、彼の遺産は、今後も植物学研究の中で永遠に語り継がれるでしょう。

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