アドルフ・リッケンバッカー

アドルフ・リッケンバッカー：エレクトリックギターの先駆者

アドルフ・リッケンバッカー（Adolph Rickenbacker, 1887年4月1日 – 1976年3月7日）は、スイス生まれのアメリカ合衆国に帰化した楽器製造者、経営者であり、リッケンバッカー社の創業者として広く知られています。彼の生涯は、革新的な楽器開発と、音楽業界への多大な貢献によって特徴づけられます。

生い立ちと苦難の時代

1887年、アドルフ・リッケンバッカーはスイスのバーゼルで、ドイツ系のアドルフ・アダム・リッゲンバッハー（Adolf Adam Riggenbacher）として生を受けました。1891年、一家はアメリカ合衆国へ移住し、英語風にリッケンバッカー（Rickenbacher）と改姓。オハイオ州コロンバスで新たな生活を始めます。しかし、アドルフの少年時代は決して平坦ではありませんでした。母親を亡くし、父親は鉄道事故で両脚を失い、酒に溺れるという状況の中、彼は長姉に育てられました。青年期になると、アドルフは自分の名前をAdolphと綴るようになります。

コロンバスで出会ったドイツ系のシャーロッテ・カマラー（Charlotte Kammarer）と結婚後、イリノイ州を経て、1918年にカリフォルニア州南部に移住しました。

姓の変更と転機

第一次世界大戦中、遠縁のエディ・リッケンバッカー（Eddie Rickenbacker）が米軍のエース・パイロットとして活躍したことが、アドルフに影響を与えた可能性があります。1930年代、彼は自身の姓の綴りを、ドイツ語風のRiggenbacherから英語風のRickenbackerへと変更しました。もっとも、個人的な手紙などでは、生涯にわたって"Riggenbacher"の署名を用いたそうです。

楽器製造への道

1920年代後半、アドルフ・リッケンバッカーは自身の会社、リッケンバッカー・マニュファクチャリング・カンパニー（Rickenbacker Manufacturing Company）を設立し、ナショナル・ストリング・インストゥルメンツ・コーポレーションに金属製のギターボディを供給するようになりました。この繋がりが、ジョージ・ビーチャム、ポール・バース（Paul Barth）との出会いを生み、共同でロー・パット・イン・コーポレーション（the Ro-Pat-In Company）を設立するに至ります。

1932年、彼らは最初のアルミニウム鋳造ラップスティール・ギター、「フライング・パン」（Frying Pan）を開発しました。これは、エレクトリックギターの黎明期を代表する画期的な製品でした。2年後、社名はエレクトロ・ストリング・インストゥルメント・コーポレーション（the Electro String Instrument Corporation）へと改称されました。1939年に製造が中止されるまでに、約2,700本のフライング・パンが製造されたとされています。

事業の売却と晩年

アドルフ・リッケンバッカーは、ギターメーカーとしての将来性を確信するには至らず、1953年、南カリフォルニアにおけるエレクトリック・ギター・ブームの先駆者であったフランシス・ケアリ・ホール（Francis Cary Hall）に事業を売却しました。

1976年、アドルフ・リッケンバッカーはカリフォルニア州オレンジ郡で、癌のため90歳でその生涯を閉じました。

アドルフ・リッケンバッカーは、エレクトリックギターの歴史において、重要な役割を果たした人物です。彼の開発した楽器は、その後の音楽シーンに大きな影響を与え、今日でも多くのミュージシャンに愛用されています。

参考資料:
Rickenbacker - リッケンバッカー社公式サイト
The Earliest Days of the Electric Guitar
* Father of the Electric Guitar

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