アドン (雑誌)

アドン：日本のゲイ文化史における一雑誌

1974年5月号から1996年末まで、砦出版より発行されていた『アドン』は、日本の男性同性愛者コミュニティにおいて重要な役割を果たしたゲイ雑誌です。南定四郎氏によって創刊され、編集長も務めました。南氏はそれ以前よりゲイ雑誌『薔薇族』に携わっており、その後独立して『アドニスボーイ』を創刊した後、『アドン』へと至ります。

『アドン』の創刊は、既存のゲイ雑誌とは異なるアプローチを試みるものだったと言えるでしょう。初期の頃は『薔薇族』と比較されることもありましたが、時間の経過とともに独自のスタイルを確立していきます。特に、1990年前後からはゲイ理論への傾倒を強め、グラビアやポルノの掲載を減らしていった点が特徴的です。この変化は、部数低迷の一因ともなったと考えられています。

『アドン』の特徴として、スポーツマンやハンサムな青年を多く取り上げた誌面構成が挙げられます。また、外国雑誌からの転載写真が誌面の約30％を占めていた時期もあり、国際的な視点を持ち合わせた雑誌であったと言えるでしょう。

『薔薇族』や『さぶ』といった、既婚の同性愛者にもターゲットを絞った雑誌とは異なり、『アドン』はゲイコミュニティ全体を視野に入れていました。南編集長自身もゲイリブ活動に積極的に参加しており、雑誌を通してゲイ団体の活動やHIV予防啓発といった社会問題にも積極的に取り組んでいました。これは、同性愛者を取り巻く社会状況に対する意識の高さを反映していると言えるでしょう。

砦出版からは『アドン』以外にも、より洗練されたスタイルで成人向けコンテンツを含まないゲイ雑誌『MLMW』(ムルム)が1977年から1982年にかけて発行されていました。『MLMW』は外国雑誌からの転載も多く、武内条二氏による表紙イラストや、写真集『褌遊』で知られる栗浜陽三氏による作品なども掲載されていました。季刊から月刊へと発行頻度を変えながら、独特の美的センスでゲイ雑誌の世界に貢献しました。

『アドン』と『MLMW』は、それぞれ異なる特徴を持つものの、いずれも日本のゲイ文化の発展に貢献した重要な雑誌です。『アドン』は、ゲイコミュニティと積極的に関わり、社会問題にも目を向けた姿勢が、『MLMW』は、洗練されたデザインと国際的な視点が、それぞれの雑誌の個性として強く印象に残っています。両誌の発行は、日本のゲイ雑誌の歴史において重要な位置を占め、後のゲイメディアにも大きな影響を与えたと言えるでしょう。これらの雑誌は、単なる娯楽誌としてだけでなく、当時のゲイコミュニティの状況や社会風潮を反映した貴重な資料として、現在でもその価値を保っています。 廃刊後も、その影響は日本のゲイ文化に色濃く残っています。

これらの雑誌は、単なるエンターテイメントではなく、当時の社会状況やゲイコミュニティの意識、文化を反映した貴重な資料であり、日本のゲイ文化史研究において重要な役割を果たしていると言えるでしょう。

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