薔薇族

『薔薇族』：日本のゲイカルチャーを彩った歴史と変遷

1971年7月、男性同性愛者向けの雑誌『薔薇族』が創刊されました。商業誌としては日本初、会員制雑誌を含めても日本で7番目以降という記録を持ち、日本のゲイ文化史に大きな足跡を残しました。創刊者である伊藤文學氏を筆頭に、個性豊かな編集スタッフや、時代を反映した誌面構成は、多くの読者に影響を与えました。

官能性と社会性の融合：多様なコンテンツ

『薔薇族』は、ヌードグラビアや成人向け漫画、官能小説といったポルノグラフィックな要素を主軸としながらも、同性愛やエイズといった性病に関する啓発記事も掲載するなど、社会問題にも目を向けていました。内藤ルネ氏によるイラスト表紙や、竹本小太郎氏、山川純一氏といった著名な漫画家の作品も誌面を彩り、独特の雰囲気を醸成しました。

特に注目すべきは、出会いの場が限られていた当時の男性同性愛者にとって貴重なコミュニケーションツールとなった文通欄です。多くの読者から寄せられた手紙は、同性愛者のリアルな感情や社会状況を反映し、雑誌の重要な構成要素となりました。

編集体制と独特の編集方針

『薔薇族』の編集は、常設の編集室を持たず、必要に応じて編集者やライターが集まるという独特のスタイルで行われました。これは、編集スタッフの多くが自由な生活スタイルを送っていたことによるもので、伊藤氏自身もその点を指摘しています。

初期の編集には、伊藤氏と親交のあった藤田竜氏と間宮浩氏の貢献が大きかったとされています。特に、内藤ルネ氏の作品も手掛けていた藤田氏は、雑誌の方向性を決定付ける上で重要な役割を果たし、後年伊藤氏から「本当の編集長だった」と評されるほどでした。この二人のゲイとしての嗜好も、雑誌の路線を決定づける上で影響を与えたと考えられています。

時代の変化と休刊、そして復刊

インターネットの普及に伴い、文通欄の利用率が低下。さらに、新しいコンセプトで市場参入してきた競合誌の台頭により、『薔薇族』は経営難に陥り、2004年9月、33年の歴史に幕を閉じました。最終号には、伊藤氏の悲願であったゲイ雑誌初となるコンドームメーカーであるオカモト社の企業広告が掲載されました。

しかし、『薔薇族』は一度の休刊を経験した後、2005年4月に復刊を果たします。発行元を変え、「ゲイから世間一般へ」という新しいコンセプトを掲げ、唐沢俊一氏や一文字カルト氏といった著名なライターを起用、さらに内田春菊氏などのメジャー漫画家の作品も掲載するなど、新たな試みが行われました。しかし、2005年11月には再び休刊という決断を下します。その後も何度かの復刊と休刊を繰り返しましたが、2011年7月には竜超氏が二代目編集長に就任、誌面の大幅な刷新を行い、現在も刊行が続けられています。

デジタル化への対応

近年では、デジタル化への対応も進めており、2020年8月には創刊号のデジタル配信を開始。2024年7月からは、バックナンバーのデジタル版配信も再開されています。

『薔薇族』という名前に込められた意味

雑誌のタイトルである『薔薇族』は、男性同性愛者を指す隠語として使われる「薔薇」に由来しています。しかし、この隠語は『薔薇族』以前から存在しており、三島由紀夫の写真集『薔薇刑』や、それ以前から存在したゲイ雑誌などがその一例です。

ゲイ雑誌以外の活動

伊藤文學氏は『薔薇族』以外にも、喫茶店「談話室祭り」の経営や、日本初のゲイビデオの制作、ゲイポルノ映画製作への関与など、多岐にわたる活動を行っています。これらの活動も、日本のゲイ文化の発展に貢献しました。

まとめ

『薔薇族』は、単なるゲイ雑誌にとどまらず、日本のゲイ文化、ひいては日本のサブカルチャー全体に大きな影響を与えた出版物と言えるでしょう。その歴史は、社会の変化やゲイを取り巻く状況の変化を反映しており、日本の社会文化史において重要な資料として位置付けられます。 今後の『薔薇族』の動向にも注目が集まります。

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