アド・バード

概要

『アド・バード』は、作家・椎名誠によるSF長編小説で、彼の代表作の一つです。『水域』、『武装島田倉庫』と合わせて「椎名SF3部作」と称されます。1987年9月から1989年12月まで小説誌『すばる』に連載され、1990年3月に集英社から刊行されました。同年、第11回日本SF大賞を受賞しています。

あらすじ

物語の舞台は、広告戦争によって荒廃した近未来の世界。主人公はK二十一市に住む青年、安東マサルとその弟菊丸。彼らは、行方不明となっていた父が生きていることを知り、父のいるマザーK市を目指して旅に出ます。しかし、市外には、あらゆるものを分解するヒゾムシ、鉄を食い尽くすワナナキ、触手を持つ動く絨毯のような赤舌など、奇妙で危険な生物が跋扈していました。さらに、鳥文字を作るアド・バードや、人語を話す広告鳥も存在し、世界は異様な雰囲気に包まれています。

道中、兄弟は生体アンドロイド（ズルー）のキンジョーと出会い、共にマザーK市を目指すことになります。彼らの旅路は、様々な困難と、奇妙な出来事に満ちています。

作中に登場する主な用語

地理

K二十一市：主人公兄弟が住む都市。
マザーK市：主人公の父親が向かったとされる都市。

生物

アド・バード：広告のために改造された鳥。群れをなして文字を作り、宣伝を行います。人に直接セールスを行うものは「メッセンジャー・バード」と呼ばれます。
インドカネタタキ：宣伝用に改造されたホタテザル。白い毛を持ち、硬いものを叩きながら隊列をなして歩きます。
ヒゾムシ：体長0.8mm、幅0.5mmほどの線虫。集団で生物を飲み込みます。
ワナナキ：鉄錆を食い、酸を出して鉄を腐食させる生物。ギュルギュルといった音を立て、刺されると痺れるため「デンキ虫」とも呼ばれます。
赤舌：赤い絨毯のような生物で、細い触手を持っています。ヒゾムシなどを捕食し、キレエチレンガスのような臭いを放ちます。成長すると、超高速で移動し、宣伝生物を食う「地ばしり」や「海ばしり」になります。
スナキリ：地表近くを移動し、ラッパのような口で人に噛みつきます。

作品の背景

本作の原案は、1972年に椎名誠の友人である目黒考二の個人誌『SF通信』（後の『本の雑誌』）の別冊特集号のために書かれた、30枚足らずの『アドバタイジング・バード』という作品でした。

その後、椎名は自身の編集する流通業界専門誌『月刊ストアーズレポート』に、小売業の宣伝合戦の未来を描いた『クレイジー・キャンペーン』という小説を発表。そこには、デパートの屋上で鳥文字を書くメッセンジャーズ・バードが登場しました。

さらに数年後、SF雑誌『奇想天外』の懸賞小説に応募するため、『アド・バード』というタイトルで100枚の小説を執筆しますが、落選します。この作品では、鳥自身が主人公でした。

集英社の文芸誌『すばる』から連載依頼を受けた際、椎名はこの『アド・バード』を執筆することを希望。当初1年だった連載予定は半年延長されましたが、それでも終わらず、最終的には2年6か月の長期連載となりました。結果、全850枚という作者最長の小説となりました。

目黒考二は、本作がブライアン・オールディスの小説『地球の長い午後』へのオマージュであると指摘しています。

その他

過去にはアニメ化の企画がありましたが、実現には至りませんでした。アニメーション監督の小林治が自身のウェブサイトでアニメ化への意欲を表明していましたが、2021年に亡くなったことで、実現は不可能となりました。

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