アナンデイル＝ハートフェル伯爵

アナンデイル＝ハートフェル伯爵（Earl of Annandale and Hartfell）は、スコットランド貴族の爵位であり、イギリスの伯爵位の一つです。この爵位は、マレー家とジョンストン家という二つの異なる家系に授与された歴史を持っています。本記事では、それぞれの家系における叙爵の経緯と、爵位の複雑な変遷について詳しく解説します。

マレー家への叙爵

ジョン・マレー（?-1640）は、ジェームズ6世に仕えた廷臣であり、フォークランド宮殿の管理官を務めていました。彼は1622年 6月28日にスコットランド貴族としてアナンド子爵（Viscount of Annand）とロッホメイヴンのマレー卿（Lord Murray of Lochmaben）に叙爵されました。さらに、1624年頃にはアナンデイル伯爵（Earl of Annandale）に昇叙され、ティニンガムのマレー卿（Lord Murray of Tynningham）も合わせて授与されました。

しかし、彼の子であるジェームズ（?-1658）が爵位を継承した後、彼には子がなかったため、上記4つの爵位は全て廃絶しました。ただし、ジェームズが親族から相続したストーモント子爵のみは、遠縁のデイヴィッド・マレーに相続されています。

ジョンストン家への叙爵と複雑な経緯

ジェームズ・ジョンストン（?-1653）は、イングランド内戦期に騎士党派として活動し、三王国戦争下のフィリップホーの戦いで敗北した人物です。彼は1633年 6月20日にロッホウッドのジョンストン卿（Lord Johnstone of Lochwood）に叙爵され、1642/3年3月18日にはハートフェル伯爵（Earl of Hartfell）とロッホウッド、モファットデイル、エヴァンデイルのジョンストン卿（Lord Johnstone of Lochwood, Moffatdale and Evandale）に叙爵されました。彼の死後、同名の息子ジェームズが爵位を襲いました。

2代伯ジェームズ（?-1672）は、1660/1年2月13日にハートフェル伯爵以下の爵位を一旦王冠に返還し、その上で「アナンデイル伯爵（Earl of Annandale）」とロッホウッド、モファットデイル、エヴァンデイルのジョンストン卿（Lord Johnstone of Lochwood, Moffatdale and Evandale）として再叙爵を受けました。ただし、この再叙爵には以下の条件が付帯していました。

1. 伯爵位を統合して「アナンデイル＝ハートフェル伯爵」と呼称すること。
2. 先例に倣い、1643年 3月18日の創設とみなすこと。
3. 継承条件は男系男子であること。

その後、1662年 4月23日には、爵位の承継規定が拡張され、女系による継承も認められるようになりました。

侯爵への昇叙と爵位の変遷

ウィリアム・ジョンストン（1664-1721）は、スコットランド枢密院やスコットランド国務大臣を歴任した政治家であり、1701年にアナンデイル侯爵（Marquess of Annandale）に叙爵されるとともに、ハートフェル伯爵（Earl of Hartfell）、アナンド子爵（Viscount of Annand）、ロッホウッド、ロッホメイヴン、モファットデイル及びエヴァンデイルのジョンストン卿（Lord Johnstone of Lochwood, Lochmaben, Moffatdale and Evandale）の爵位を授与されました。初代侯の死後、その子ジェームズが爵位を相続しました。

2代侯ジェームズ（1687-1730）は、1726年に継母の子供を財産継承から排除するため、全ての爵位を返還し、再叙爵を受けました。しかし、生涯未婚のままナポリで死去したため、爵位は異母弟のジョージに相続されました。

3代侯ジョージ（1720-1792）もまた、子を残さずに死去したため、「1701年爵位群」は全て廃絶し、残る爵位は休止状態となりました。ジョージの又甥にあたる第3代ホープトン伯爵は、同家のスコットランドにおける領地を相続した後、休止していた爵位の回復を請願しましたが、これは実現しませんでした。

爵位の回復

第3代ホープトン伯爵の女系子孫にあたるパトリック・ホープ＝ジョンストン（1941-）は、休止状態にあった爵位の回復を請願しました。その結果、1985年に請願が認められ、翌年には「第11代アナンデイル＝ハートフェル伯爵」として貴族院に召集され、193年ぶりに爵位が回復されました。

貴族特権委員会は、1660年頃の勅許状による爵位継承を拒否し、1662年 4月23日付与の女系相続を認める特別継承規定に基づき、スコットランド貴族爵位「アナンデイル＝ハートウェル伯爵」の名で回復を決定しました。この決定は、1660年頃に創設された伯爵位とは別に、1662年の継承規定拡大に際して新たな伯爵位が新設されたことを意味し、第3代アナンデイル侯爵までの歴代当主は2種類の「アナンデイル＝ハートフェル伯爵」を保持していたことになります。したがって、前者の爵位は現在も休止状態にあります。

現在の当主と爵位

2020年現在、第11代アナンデイル＝ハートフェル伯爵パトリック・ホープ＝ジョンストンが伯爵家の当主を務めています。彼は以下の爵位を有しています。

第11代アナンデイル＝ハートフェル伯爵（11th Earl of Annandale and Hartfell）（1662年 4月23日の勅許状によって1643年 3月18日創設とみなされる先官礼遇を認めるスコットランド貴族爵位）
第11代ロッホウッド、モファットデイル及びエヴァンデイルのジョンストン卿（11th Lord Johnstone of Lochwood, Moffatdale and Evandale）（1662年 4月23日の勅許状によるスコットランド貴族爵位）

また、アナンデイル＝ハートフェル伯爵ホープ＝ジョンストン家は、以下の地位及び職責を世襲しています。

ジョンストン氏族長（Chief of the Name and Arms of Johnstone）
アナンデイル家令（Hereditary Steward of Annandale）
ロックメイヴン城主（Hereditary Keeper of the Castle of Lochmaben）

歴代当主

マレー家

初代アナンデイル伯爵ジョン・マレー (?-1640)
第2代アナンデイル伯爵ジェームズ・マレー (?-1658) (1658年にアナンデイル伯爵位廃絶)

ジョンストン家

初代ハートフェル伯爵ジェームズ・ジョンストン (1602–1653)
第2代ハートフェル伯爵ジェームズ・ジョンストン (?-1672) (1672年に爵位の再叙爵あり)
初代アナンデイル＝ハートフェル伯爵ジェームズ・ジョンストン (?-1672)
第2代アナンデイル＝ハートフェル伯爵ウィリアム・ジョンストン (?-1721) (1701年アナンデイル侯爵叙爵)

アナンデイル侯爵

初代アナンデイル侯爵ウィリアム・ジョンストン (?-1721)
第2代アナンデイル侯爵ジェームズ・ジョンストン (c. 1687–1730)
第3代アナンデイル侯爵ジョージ・ヴァンデン＝ベンプド(1720–1792) (1792年アナンデイル侯爵廃絶)

アナンデイル＝ハートフェル伯爵 (1662年)

(第5代アナンデイル＝ハートフェル伯爵)・第3代ホープトン伯爵ジェームズ・ホープ＝ジョンストン (1741–1816)
(第6代アナンデイル＝ハートフェル女伯爵)アン・ホープ＝ジョンストン (1768–1818)
(第7代アナンデイル＝ハートフェル伯爵)ジョン・ホープ＝ジョンストン (1796–1876)
(第8代アナンデイル＝ハートフェル伯爵)ジョン・ジェームズ・ホープ＝ジョンストン (1842–1912)
(第9代アナンデイル＝ハートフェル伯爵)イヴリン・ウェントワース・ホープ＝ジョンストン (1879–1964)
(第10代アナンデイル＝ハートフェル伯爵)パーシ・ウェントワース・ホープ＝ジョンストン (1909–1983)
第11代アナンデイル＝ハートフェル伯爵パトリック・アンドリュー・ウェントワース・ホープ＝ジョンストン (1941 - ) (1985年に伯爵位回復)

現在の法定推定相続人は、現当主の息子であるジョンストン卿（儀礼称号）デイヴィッド・パトリック・ウェントワース・ホープ＝ジョンストンです。その法定推定相続人は、マスター・オブ・ジョンストン（儀礼称号）パーシー・ジョン・ウェントワース・ホープ＝ジョンストン(2002- )です。

アナンデイル＝ハートフェル伯爵