アニサチン

アニサチン：シキミに含まれる神経毒

アニサチン (anisatin) は、化学式 C₁₅H₂₀O₈ で表される有機化合物です。シキミの実に含まれ、強力な神経毒性を持ちます。ヒトが経口摂取すると、深刻な健康被害を引き起こす危険性があります。

毒性と中毒症状

アニサチンは、哺乳類に強い毒性を示すことが知られています。マウスにおける致死量は1mg/kgと報告されています。ヒトが毒性量を摂取した場合、1～6時間後に症状が現れます。初期症状は、嘔吐、胃痛、下痢などの消化器系の不快感です。その後、神経毒としての作用が現れ、意識消失、呼吸困難といった重篤な症状に発展する可能性があります。てんかん発作、痙攣、幻覚などの症状が現れる場合もあります。最悪の場合、死に至る可能性も否定できません。

γ-アミノ酪酸（GABA）受容体への作用

アニサチンの毒性メカニズムは、γ-アミノ酪酸（GABA）受容体への作用に関連しています。カエルの脊髄やラットの脳を用いた実験から、アニサチンはGABA受容体を非競合的に阻害することが明らかになっています。これは、GABA受容体の活性化物質であるGABAを添加しても、アニサチンの阻害作用が解除されないことを意味します。

ピクロトキシニンもGABA受容体に作用する毒物として知られていますが、興味深いことに、高濃度のピクロトキシニンを作用させると、アニサチンのGABA受容体への作用が消失することがラットの神経細胞を用いた実験で示されています。

アニサチンによって誘発される痙攣は、ジアゼパムの投与によって抑制できることが分かっています。ジアゼパムはベンゾジアゼピン系薬剤であり、GABA_A受容体に作用して神経細胞の興奮性を抑えることで抗痙攣作用を発揮します。

アニサチンの合成

アニサチンは複数のキラル中心を持つ複雑な分子構造を持っています。(-)-アニサチンのみの全合成法は、1990年に報告されています。

法規制

日本では、アニサチンを多く含むシキミの果実は、毒物及び劇物取締法によって劇物に指定されています。これは植物としては唯一の指定です。

アニサチンの分類

アニサチンはイソプレノイドの一種であり、炭素数15個のセスキテルペンに分類されます。

まとめ

アニサチンは、シキミに含まれる強力な神経毒です。その毒性メカニズムはGABA受容体阻害作用に関連し、深刻な健康被害を引き起こす可能性があります。日本では劇物として指定されており、取り扱いには細心の注意が必要です。今後の研究により、アニサチンの毒性メカニズムや治療法に関するさらなる知見が得られることが期待されます。

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