シキミ

シキミ：仏事と毒性を併せ持つ常緑樹

シキミ（学名: Illicium anisatum）は、マツブサ科シキミ属に分類される常緑性小高木から高木です。本州から沖縄、済州島にかけて分布し、高さは通常2～5メートルですが、場合によっては10メートルを超えることもあります。特に日本海側では、3メートル以下のものが多く見られます。

樹木の形態

シキミの葉は枝先に集まって互生し、春には枝先に多数の黄白色の花を咲かせます。花期は3～5月で、ソメイヨシノよりも早く開花します。葉は濃緑色で光沢があり、裏面は灰緑色で厚く革質です。葉を傷つけると、抹香のような香りが漂います。

9～10月には果実が熟します。8個ほどの袋果が合着した、直径2～3センチ[[メートル]]の8角形または星形の果実です。この果実は木質化し、裂開後に種子をはじき飛ばします。種子は黄褐色で光沢があり、やや扁平な楕円形です。

猛毒と誤食事故

シキミの葉、茎、根、花、果実、種子など、全草に有毒成分が含まれています。特に果実と種子の毒性が強く、誤食すると嘔吐、腹痛、下痢、痙攣、意識障害などを引き起こし、最悪の場合、死に至ることもあります。その毒性から、植物としては唯一、毒物及び劇物取締法で劇物に指定されています。

主要な毒成分は神経毒であるアニサチンとネオアニサチンです。これらの成分は、神経伝達物質GABAの働きを阻害する作用を持ちます。シキミの果実は、香辛料として利用されるトウシキミ（八角）と非常に似ているため、誤認による中毒事故が後を絶ちません。トウシキミには毒性はありませんが、シキミの果実は「毒八角」とも呼ばれ、注意が必要です。

有用成分と薬効

シキミには毒性成分以外にも、シキミ酸や精油成分が含まれています。シキミ酸は、インフルエンザ治療薬であるタミフルの原料として知られています。ただし、シキミ酸自体には薬効はありません。精油成分には、1,8-シネオール、サフロール、リナロール、ミリスチシンなどが含まれており、独特の香りを生み出しています。この香りは、抹香や線香の原料として利用されてきました。

生態と分布

シキミは、暖温帯の山地の林内に生育します。本州、四国、九州、南西諸島、韓国の済州島に分布しており、地域によっては絶滅危惧種に指定されていることもあります。ヤマガラやヒメネズミがシキミの種子を散布する役割を果たしていると考えられています。

仏事と神事におけるシキミ

シキミは、古くから仏事において広く用いられてきました。特に関西地方では、仏前や墓前に供えられることが多く、その独特の香りは邪気を払う力があると信じられてきました。墓地に多く植えられているのは、この香りで死臭を消したり、害獣を忌避する効果があるためだと言われています。

シキミは、死者の枕元に供える花（一本花）、死水をとるための葉、納棺時の棺敷きなど、葬儀の様々な場面で使われてきました。また、愛宕神社など、一部の神事にも用いられています。

その他の利用

シキミは仏事用途以外にも、材として細工物、傘の柄、数珠、樽などに利用されてきました。また、木炭や薪、殺虫剤としても利用されてきました。

文化と名称

シキミは、古くから和歌や古典文学にも登場しており、日本人にとってなじみ深い植物です。花言葉は「援助」、「甘い誘惑」、「猛毒」です。和名の「シキミ」の語源には諸説ありますが、四季を通して美しい、または芽をつけることから来ているという説が有力です。他にも、多くの別名を持ちます。

保全状況

シキミは現在広く栽培されていますが、山採りされたものが仏事用に利用されたことから、絶滅した地域もあります。地域によっては、絶滅危惧種などに指定されています。

分類

シキミには、葉が細いオキナワシキミなどの変種や、花被片の色が淡紅色のウスベニシキミなどの品種があります。八重山列島から台湾には、同属のヤエヤマシキミが分布しています。

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